日本沿岸希少種ミンククジラ混獲の実態

沿岸捕鯨再開提案の陰で進むもうひとつの“捕鯨”

 「ミンククジラはたくさんいる」と喧伝されているが、実際には海域によって事情は異なる。日本の周辺には2つの個体群が生息し、そのうちの希少個体群 「東シナ海・黄海・日本海系群(J-Stock)」については、日本も商業捕鯨の対象はオホーツク海・西太平洋系群(O-Stock)であってJ- Stockではない、としている。その一方で、「混獲」の名の下に日本で利用されているミンククジラは年間120~130頭いる。 韓国での混獲を含めると 年間300~500頭のミンククジラが、日本や韓国で流通しているはずだ。この数字は、マキエラIWC議長が2010年4月22日に提示した年間の暫定捕 獲枠(日本沿岸120頭、沖合40頭)よりも多い。資源管理をする上で無視できるほど少ない数ではない。また、混獲されたミンククジラにJ-Stockが どれほど含まれているのかは長らく明らかにされてこなかったが、最近ようやく(財)日本鯨顆研究所(鯨研)がデータを公表した。そこからは、日本での混獲 のうち約77%がJ-Stockであることが読み取れる。

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『混獲』とはなにか

 クジラの混獲は、沿岸域に設置される定置網漁業で起きやすい。定置網はサケやブリなど特定の魚種を狙って彼らの回遊路の途中に仕掛けるものもあるが、季 節や海の状況によって獲れる魚が変わるのを織り込み済みで設置する定置網もある。定置網漁業で捕獲される魚は約100種。それらの餌を追ううちにクジラ自 身も入ってしまうのだ。鯨類は沿岸漁業の対象ではないために「漁獲」ではなく「混獲」と見なされる。

無視できないJ-Stockの混獲数

 日本政府は、2001年7月に、DNA登録を条件に座礁・混獲したクジラの商業流通を許可した。商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)以降は無料配布・地 元消費のみを認めるとしてきた規制を緩和したのである。2009年末までに1113頭が登録、販売された。販売目的でDNA登録されるのはすべてヒゲクジ ラで、そのはとんどはミンククジラ。登録数は年間120~130頭前後で推移し、2006年と2007年は150頭を越えた(上記折れ線グラフを参 照)。この制度開始にあたっては、積極的な捕獲(定置網への追い込み等)を誘発する可能性を指摘する声もあったが、その実態は明らかにはされていない。
 では、混獲されるミンククジラの中に、J-Stockはどのくらい含まれているのだろうか。鯨研の発行する鯨研通信第444号16ページには、「遺伝子 情報をもとにO系群またはJ系群に識別された個体の分布様式」と題する地図が掲載され、海域別に系統群の混在比率が示されている。そこで、これを手がかり に、同研究所が集計し発表している混獲・座礁の情報(ストランディングレコード)の海域別混獲頭数の頭数を分析すると、混獲されたミンククジラの3/4以 上がJ-Stockだとわかった。さらに、報道によれば、韓国で起きているミンククジラの混獲は年間約200頭いうのが公式見解であるものの、実際には 400頭に上るとみる専門家もいる(聯合ニュース 2006年1月11日)。韓国は東海(日本海)と黄海に面している。鯨研通信では黄海や韓国周辺海域の J-Stockの比率は示していないが、日本沿岸なみの比率だとすれば韓国で起きている混獲でも相当数のJ-Stockが混ざっているはずだ。

これらのことを考え合わせると、

  1. J-Stockの生態調査を、混獲の実態調査を含めて、日本および韓国・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、ロシア、中国が協力して行うべき である。
  2. 混獲を資源管理の対象から外すのではなく、捕鯨業による捕獲と同等と捉え、RMP(改訂管理方式)を用いた資源管理を行うべきである。
  3. 混穫は捕鯨業による捕獲と同等と捉えるべきであり、したがって、議長提案にある日本沿岸捕鯨の捕獲粋は混穫を含めた捕獲粋とするべきである。

【佐久間 淳子】


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