名古屋タイムズへの抗議書

2003年11月15日(土)
名古屋タイムズ社会部/
編集責任者さま、
長坂記者、

11月13日付けの「ニュース特捜隊」の記事を見てたいへん驚きました。

何回か、お電話でお話しましたが、このようにこちらの意図を曲げられてしまうとは思わなかったのです。お互いの信頼関係でお話するわけですから、騙された私が悪いとおっしゃるならそうなのかもしれませんが。電話取材でその後直接の確認もしないまま書かれたためか、それとも考えたくはありませんが最初から悪意をお持ちだったのか、かなり事実の誤りがあること、結論が強引で、公正な立場とは判断できないことについてここに抗議を したいと思います。

当該記事ほどこちらの立場についての言及がある場合は、直接インタビューするのがふつうではないでしょうか。5日には名古屋にいて、電話をお話しているので不可能ではなかったはずです。

これまで98年から、シャチに関してはずいぶんたくさんの記事が書かれてきましたが、これほどまでに悪意が感じられるものは初めてです。

最初の点に関しては、「アメリカを中心とする鯨類保護の動きが活発化」とあいまいな書き方をして、今回の名古屋とアメリカが直接関連するかのように見せかけていますが、これは、読者を恣意的に誘導する以外のものではありません。名古屋港水族館に関していえば、もしあなたがきちんとした取材を心掛けられたなら、国内における多様な運動、特に名古屋での運動を紹介されることでしょう。それをしないで敢えてアメリカを持ち出し、それに続けて東京が本拠の団体を紹介するのはいかにも意図的です。特に、さまざまな形で運動してこられた名古屋市民に対しての侮辱です。

文中、「他にもシャチを飼育している所があるのに」と言うことについては、「飼育そのものには反対しているのは、ホームページの私たちの意見を見ればわかるはずです。その上で、新たに入れようとしているのが名古屋だった、また、これまで調査がなされていないロシアで捕獲しようとしていたから反対しています。なぜなら、いったん飼育されたシャチは自然界に戻すのに⋯」と答えたはずです。ここでも微妙にこちらの意図をはしょって、結果としてはわけのわからない意見をのせています。ちなみに、1997年には、他の水族館への抗議行動をしていますし、そのことはHPを見て電話されたわけですから、読めばわかるはずです。

『「反対運動」空回り』と言うところも恣意的です。なぜなら、すでに2001年のオープン直前の「名古屋港水族館を考える仲間たち」の記者会見でこの構想は発表されており、記事にもなっているからです(毎日新聞2001.9.29)。

私たちが企画したものでないことは電話で何回も申し上げた通りですから、ここに書かれていることは、聞き違いではなく意図的なものと考えられます。

「こうなると⋯集中攻撃の根拠がなくなった」という書き方も論理的ではありません。もともと攻撃のための攻撃をするほど暇を持て余しているわけではありませんので、もし、解決したというのであれば結構なことです(間だ解決したとは考えていませんが)。

「もともと飼育されていた」という言うかたも、その前に経緯を紹介されているのでへんな言い方です。電話でいいましたとおり、今度搬入されたメスは1997年に太地で学術目的の特別捕獲枠で捕獲されたもので、水産庁のお知らせ(1997年)には、ショーに使用しないことはもちろん、一般展示も基本的にはしないように書かれています。今回は、「共同研究」という名目で移動が可能になったもので、展示が目的ではありません。

一言付け加えさせていただくと、「バーチャルでない実物」が欲しいために、自然界をないがしろにし、自然ではありえない繁殖を行ったり、ショーまがいのことをするのが本当に教育的なことか、あなたの勝手な解釈ではなくて、読者の判断をあおいだほうがいいのではないでしょうか。

1992年に生物多様性条約が批准された意味は、自然界のすべてを人間本位に使っていいという時代が終わったということです。

名古屋が引き金となって行われたロシアにおけるシャチ捕獲では、すでに二頭のシャチが死亡しています。従って、「これ以上野生からの捕獲を行わない」という名古屋港水族館の今回の決断については素直に評価し、感謝しています。これをなぜ空回りと書くのだろうか?私にはわかりません。

いずれにしても、あなたが書いたように、人間が欲することだからと、所属する家族の群れから引き離し、一生をコンクリートの中に閉じ込めることの正統性を「実物」や「現場」ということばで正当化できる時代ではありません。

こうした問題についての判断は、あなたが誘導をしなくても読者がきちんとするはずです。あなたの役割は、冷静に取材し、客観的な報道を心掛けることだと思います。

今後は、このような「ためにする」記事ではなく、誠心誠意を込めて取材をなさり、記事を書かれるよう、心からお願い申し上げます。

イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
倉澤七生
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