海洋基本計画(原案)への意見

内閣官房総合海洋政策本部事務局 御中

以下のような海洋基本計画(原案)への意見を提出させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
事務局長・倉澤七生

<意見の概要>

素案の段階とくらべ、海洋環境と生物多様性保全の必要性が各所に書き込まれたこと、第3次国家戦略についての記述があること、また、同計画の根拠として「環境と開発に関するリオ宣言」がはっきりと謳われていることを評価します。

一方で、リオ宣言にのっとった環境の保全を前提とすべき「持続可能な利用」の考え方は相変わらずかなりあいまいで す。  また、「人類の共有財産」(P17)と記述されている海洋について、共有できる利害(エネルギー供給をはじめとする海洋資源の獲得)以外の市民の選択や役割が軽んじられているという問題は解決していません。

そこで、以下の2つの点について特に注目し、原案への個別修正を意見として提出します。

海洋とのかかわりにおいて、海洋は「場」であるだけではなく、そこに生息する生物の多様性によって海域ごとに多様で豊かな環境と海洋資源を作り出すというベーシックな認識の共有が重要です。こうした認識が短期的な利益(国益も含む)の追求では見過ごされる長期的な利益(経済的な利益を含む)を守るものです。原案では、利用と保全が別立てになっているところがあります。まるで環境は余裕があるときの倫理規定のように読めるところもあります。

「リオ宣言」に基づいた「持続可能な開発」という概念は、「環境の保護は開発過程に欠くことのできない部分(リオ宣言第四原則)」であり、生物の多様性を確保できるという条件の開発のはずです。本来の意味で持続可能な開発であることを証明するための環境影響評価、モニタリング等、透明性の高い仕組みを担保する必要があります。本計画では、「誰が」「どこで」「どのように」持続可能かどうかを判断するような仕組みが見えません。

<意見>

意見1.P1 総論(1)海洋と我々との関わり

1段落目(9行目)の後に以下の文章を挿入

「海洋は、そこに生息するさまざまな生物の住処であるとともに、生物の多様性をもって海域ごとの独特の環境を形作る。海洋における生物もまた地球のかけがえのない生命であり、生物多様性保全は海洋環境、海洋の利用の基盤となるものである」

理由:海洋と人との関わりにおいては、海洋の生態系を形作る生物多様性の保全が不可欠です。ここに挿入することで、海洋の生物多様性が人間活動を持続的に行ううえでも重要であることが見えると思います。

意見2.P3 (3)2段落目の6行目

「さらには」の後に

「市民の参加の重要性を認識し、開発行為が持続可能に行われるかどうかを検討する計画段階での環境影響評価、過程のモニタリングや影響軽減措置、事後の評価等を透明性をもって行い、」を追加挿入。

理由:「環境と開発に関するリオ宣言第10原則」を踏襲し、持続的な開発を達成するための環境影響評価と市民参加を担保すべきです。

意見3.P4 2段落目の4行目

「産・学・官」のあとに「民」を追加

理由:2と同じ

意見4.P5 目標2 2段落目

「我が国が管轄権を有するこれらの資源や空間の持続的な利用」のあとに

「海域における国際的な海洋環境の保全への管理責任を認識し」を挿入

理由:排他的経済水域・・・・は国の所有物として利用のみを先行させるのではなく、国際的な責任を有することを認識する必要だと思います。

意見5.P6 第1部 1 3段落目最後

「これらの水産資源の回復措置に加え」の後に「クジラ類」を挿入。

理由:我が国周辺に生息する鯨類はおよそ40種に上るといわれます。定置網による鯨類の混獲は、2007年には記録されているだけでも177件あります が、一部商業流通を許可されている種もあるためか(遺伝子登録し商業流通したクジラは148頭)混獲回避のための技術改良などはほとんど行われていませ ん。生きたまま捕獲されている場合が多いこともこの商業流通されているものの特長ですが、これではまるで利用のための「混獲」という姑息な手段という疑惑 も生じかねません。

いずれにしても海洋生態系の保全を考えるならば、その要の種であるクジラの混獲回避を除外することは科学的でも合理的でもありません。

意見6.同じく4段落 3行目

「石油・ガス開発・・・・、海洋環境への影響」のあとに「を客観的に評価する仕組みを作り、影響に配慮しながら」

とする。

理由:誰がどの時点で配慮するか明らかにしたほうがいいと思います。

意見7.上から2行目

「このため、環境に与える影響を事前に評価」「し」を削除し、「する環境影響評価の仕組みを導入し」を挿入

理由:意見6と同じ

意見8.上から5行目

「豊かな」の後に「海洋環境、」を挿入

理由:豊かな海洋環境が豊かな海洋資源を確保するためには不可欠です。

意見9.P13 6 海洋に関する国際協調 2段落 5行目「その遵守の確保について」の後を削除し、「先進国としての責任ある役割を担うことが必要である」に修正。

理由:公海における水産資源の獲得(輸入も含む)や保護区での「調査」捕鯨の推進・拡大を考えるとき、日本が「先導的な役割」を果たしているかどうかは疑問です。もっと謙虚に「等身大のわが身」を振り返り、反省するところからスタートしたいものです。

意見10.P14 2段落 6行目

「鯨類等の合理的利用を否定する動きについては」を削除。

理由:国際的に意見が分かれており、かつ我が国水産物のごく一部でしかない鯨類について資源としてことさら強調することは、先進国の食料問題解決の方法として、あるいは国際協調のあり方としてかなり稚拙だと思います。

意見11. 2 海洋環境の保全等 (1) 9行目

「漁業活動における」と「海鳥、ウミガメ」の間に「クジラ類」を挿入。

理由:意見5と同じ

意見12. 2(3) 1行目

「海鳥等」の前にクジラ類を入れる

理由:クジラ類の移動についての情報の国際的な共有が日本の側の情報の提供の不十分さのために出来ていないと思います(例:コククジラ)。

意見13. 3(2) ア 2段落 2行目

「水産動植物の増養殖の推進」のあとにに「とその効果検証及び生態系への影響調査」を挿入

理由:水産資源の持続的な利用でのプライオリティは漁場の回復だと考えます。

短期的な解決策として増養殖を否定はしませんが、まったく海域の異なる稚魚放流、養殖するために使用する輸入種の逸走の可能性など、結果的に生態系へ悪影 響をあたえる可能性も否定できません。影響を決め細やかに評価していかないと、将来的に禍根を残す元になると思います。

意見14. P42 第3部 2段落 7行目

「国民、NPO等は、」の後に「豊かな海洋環境を将来の世代に手渡すため積極的に海洋環境保全に貢献するため政策決定段階での市民参加や影響評価等の検討会等への参加を行い、」を挿入。

理由:海洋に対して市民の果たす役割と権利は計画の実現に不可欠のものです。

お上が下々に義務を要求するような書き方ではなく、もっと積極的な市民参加への門戸を開いてくださることを期待します。

意見15. P43 第3部 3

最後に、「また、施策に対する意見を随時受けるものとする」を付け加える。

理由:施策の検証への市民参加と施策へのフィードバックも重要です。

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