名古屋港水族館シャチ飼育問題に関する意見書

2003年7月25日(金)

水産庁長官 田原文夫 殿
水産庁遠洋課捕鯨班 中塚周也 殿

イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
事務局長 倉澤七生
入間郵便局私書箱10号

名古屋港水族館のシャチ飼育問題に関しての意見書

 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 この度は、名古屋港水族館のロシア海域でのシャチ捕獲計画に対し、水産庁が慎重な態度を取るようにと助言をされたことについて、生物多様性保全、野生生物保護の観点から高く評価し、感謝の意をお伝えいたします。
 早速ですが、この7月28日水産庁にて開催を予定されている太地で飼育されているシャチの移動に関していくつかの疑問があります。当該シャチは、原則禁止されている捕獲を学術目的として特別に許可されたものであり、 飼育当事者のみならず、一般市民にもその行方については発言する権利があると考えます。意 見書を当日の議論に反映していただくことはもちろん、質問への回答と協議内容の公開をお願いする次第です。

<背景>

  • 名古屋港水族館は、2001年度の新館オープンに際し複数のクジラ類飼育を計画した。同年、16頭のバンドウイルカとベルーガを搬入し、飼 育を開始したが、目玉とされたシャチの複数飼育は、ロシア海域での捕獲の失敗によって実現しなかった。同水族館は翌年、再び同じ海域でのシャチ捕獲を計画 したが、計画段階で挫折した。
    なお、捕獲予定海域は、2000年に初めてのシャチの生態調査が開始されており、いまなおその全貌は明らかではない。
  • 名古屋港水族館は、野生シャチの捕獲を停止するとともに、太地で飼育されているメス(1997年捕獲)の導入を計画している。


<1997年シャチ捕獲について>
 シャチは、1993年から捕獲が原則として禁止されているが、1997年の捕獲に際しては本来あるべき事前協議、専門家の同意や研究計画書等の有無に関 して不透明な問題が浮上し、かつ国際的な批判を浴びたこともあって、水産庁とシャチ飼育水族館が事後に改めて協議を行い、協議に従って以下のことを決めて 一般に告知をしている(平成9年3月28日水産庁のお知らせ)。

○研究計画書の提出と研究目的に関する同意に基づき次の取り扱いを行う
  1. 今回(1997年)採捕されたシャチの展示については、1水族館(白浜)は、基本的には展示に供することはしない(ただし研究過程にお いて展示用のプールを使用することもある)が、2水族館(三津、太地)は、入り江を仕切った開放型水族館であることから、入場者が見ることが可能な状態と なる。
  2. 今回採捕されたシャチについては3水族館とも、研究のための馴致(血液採取、体温測定等を行うために必要なしつけ)はするが、ショーのための訓練はしない。

と取り決めている。また、「繁殖に必要な生理、生態、習性等を研究することを目的に国内の他の水族館及び大学との共同研究または研究協力を行う」とし、その研究結果等は和歌山県を通じて水産庁に報告することと転売禁止がうたわれている。

<疑問点>

  1. この度、太地町立くじらの博物館はある新聞によると「年間数千万円」で、上記取り決めにあるシャチのうちの1頭を貸し出すと言われま す。これは、先だって当時担当であった光富氏から聞いた「太地の飼育施設が老朽化したため、新たに建設された名古屋港水族館の施設を借用して研究を継続す る」という説明とは逆であるように思われます。真偽はいかがでしょうか?
  2. 施設的には、開放型の太地の方が条件はいいと思われますし、また、隔離されているとはいえ、他にもシャチが飼育されており、クジラの博 物館は飼育経験も豊かです。同博物館が「特別捕獲」されたシャチを移動させる理由は、当初の協議に反する商業目的のものではないかと思いますがいかがです か?
  3. 名古屋港水族館はこれまでシャチ飼育の経験もなく、他にシャチはいません。
    名古屋港水族館はシャチ飼育の目的を繁殖としていますが、冷凍精子による受精実験を「ブリーディングローン」として許可するのは、本来の目的を逸脱したも のです。このような拡大解釈は、動物園や水族館に関しての法律のない現在の日本では、業者による不適切な行為を増長することになるのではないでしょうか?
  4. 太地くじらの博物館の研究計画書では、太地におけるシャチ飼育の目的は「異種間交流」であると認識していますが、もし、シャチの移動が行われた場合、今後の学術研究は1どのような目的で2どなたの責任において3いかなる方法で提出されるのでしょうか?

 日本には、すでに11頭のシャチがおり、水族館での繁殖実験にも成功しています。また、シャチの生理・生態を調査するには、野外での研究にまさるものは ありません。太地のシャチを移動させることによる積極的な調査研究が考えられるとすれば、同じ群れのシャチとの再会と解放であろうと私たちは考えていま す。

 最後にお願いがあります。残念ながら、日本沿岸のシャチについては、調査が不十分なため、その生息数さえ生態の近似しているといわれるコビレゴンドウか らの推定でしかありません。日本においても、自然保護、生物多様性保全への関心はいやまし、新・生物多様性国家戦略において「海棲生物の保護と管理」とい う項目が入りましたし、昨年改正された鳥獣保護法においても、原則全ての哺乳類がその対象とされました。このような情勢をご考慮いただき、ぜひとも、この 機会にシャチに関して、捕獲、飼育ではなく野生のシャチの生態の積極的な調査・研究を心からお願いする次第です。
以 上

insurance
insurance
insurance
insurance