イルカの新捕獲枠に関する公開質問状
水産庁長官 白須敏朗 殿
遠洋課捕鯨班 諸貫秀樹 殿
9月1日からの新たな捕獲枠でのイルカ追込み猟が開始されるのに先立ち、イルカ新捕獲枠に関して以下の質問状をお送りいたします。
1. イルカの資源量評価について
イルカの資源評価の1992年と2005年の違い
水産庁のHPにある推定個体数の出典は、カマイルカの暫定値(2005年)を除くほとんどが1990~1993年です。これは、資源評価のもととなる調査・研究の年ですか?
当会が貴庁にお聞きしたときに、「これまではニタリクジラ調査に付随して調査が行われ、実際の生息海域とは若干異なるため、イルカ調査を行うことにした。 イルカに特化した調査は昨年(2006年)始まったばかりで、資源評価については時間がかかる」というお答えをいただいております(HPでは「追い込み漁 業の対象となる6種については大型鯨類の資源量調査中に収集されたデータを検討したが、漁業対象種に目的を絞った目視調査の必要性も指摘されている」とあ る)。
1992年と2005年の推定個体数の一部劇的な変化は、海域の異なるところで調査が進んだなど新しい知見がその後得られたということか、あるいは推定個 体数の算出方法が異なるのか理由が分かりませんので、前回の推定個体数および新しい推定個体数の根拠となった調査年度と調査を実施された海域、算出方法な ど、推定数の大きな違いについてお教えください。
例:マダライルカ(1992年)30,100頭 (2005年)397,515頭
スジイルカ(1992年) 22,500頭 (2005年)502,436頭
2. トドとの管理の方法の違いについて
先ごろ、トドの保護管理に関する記者発表がありました。そこにはトドの生息等に関する非常に詳細な報告や検討事項も公開されました。
トドはイルカと異なり漁業被害軽減のために年間の捕獲数の上限が定められているという違いはあるものの、その捕獲数はアメリカのNOAAのPBRを参考に している点で管理方法は同じと考えられます。しかし、トドとイルカではいくつかの点で異なる設定がなされているようです。
1) | トドの推定個体数はその生態が十分調査され、把握された上で陸と航空機を使った調査で出され、さらに査読されたのちに捕獲枠の最終決定がなされているのに比べ、イルカの生態に関する調査はまだ途上であり、十分な情報がない状態で捕獲枠を設定している。 |
2) | トドはS&L(ストラックアンドロスト)や混獲の数も枠設定に考慮されている。 |
昨今の予防原則の考え方からも、トドの設定方法は、イルカに関する枠の設定よりも優れていると考えられますが、なぜ、管理方法が異なるのですか?
また、今後も異なる管理方法をとられる予定ですか?それともこのような方法を取り入れる予定がありますか?
* ロシアにおいて絶滅を危惧されているトドを漁業被害軽減目的で捕殺することを是としているわけでありません。念のため。
3. 操業する船の数について
先ごろ道県に送られたイルカ捕獲枠の表にある船の数の一部に操業実態とは異なるものがありました。
例: | 青森県 | 許可船数はあるが、イルカ漁業を実施している実態はない。 |
静岡県 | 追い込み漁に使用される船の数が50隻とあるが、イルカ猟を実施している富戸におけるエンジン付の漁船の数は27隻である。 | |
和歌山県 | イルカ猟を実施している太地町の報告では突きん棒従事者は29名で、100隻の船数は不自然である。同じく、追込み用の船は現在12隻だが、許可船数は17隻。 |
また、本来は操業する者も特定されているはずの許可が船とともに売買されているという話もあります。これは違反ではありませんか?
4. イルカ肉汚染とその調査について
この8月23日における太地町追い込み漁の実施漁業者に対して、今後追い込み漁で捕獲されたしすべてのイルカ、ゴンドウ類に関し、すべての部位の水銀及 びPCBsの汚染調査を水産庁が行うと説明したということですが、この数値は公表されますか?また、汚染値が国の暫定基準を超えた場合、イルカ肉はどのよ うに処理されますか?
厚労省の水銀に関する警告では、バンドウイルカ、コビレゴンドウ、ツチクジ ラに関して、妊婦に注意を促しています。また、消費者団体の調査では、他のハクジラ類からも暫定基準値を超える水銀やPCBsの蓄積が認められています。
他のイルカ類捕獲地においても、同様の調査と処置をとる必要があると考えられますが、調査を実施する予定がおありでしょうか?
5. カマイルカの捕獲枠について
前述の水産庁の資源評価でカマイルカはまだ2005年の暫定資源量によって枠が設けられました。カマイルカについては、研究者の中にも反対するものがい たとお聞きしましたし、また、貴庁が昨年10月に実施されたパブリックコメントでは、意見を提出した全員が新たな捕獲対象種とすることに反対しました。こ のような状態であるにもかかわらず、急いで対象種に加え、枠を設定したのはなぜでしょうか?
6. 壱岐のイルカ猟について
長崎県の壱岐ではかつて害獣駆除の名目でイルカの捕獲が行われ、その肉や生体が売買されたことがあります。貴庁は、当該海域での生息調査が不十分であ り、まず調査を先にするべきだとされてきましたが、来年度に許可枠を出すという話が伝わってきました。しかし、長崎県において、まだイルカの生態調査は実 施されていないと聞いておりますので、これは事実ではないと考えていいのでしょうか? それとも調査が実施されない段階でも、捕獲の許可が出される可能性 があるのでしょうか?
その場合、壱岐で行われるのは害獣駆除ですか?イルカ漁業ですか?
以上の点についてお答えいただきたく、よろしくお願いいたします。
なお、この質問及びお答えについてはHPなどで公開する場合があります。