富戸でまたイルカ猟!?

8月26日、静岡県の伊東市漁協は9月1日から始まるイルカ追い込み猟の猟期にむけて、これまでの違反捕獲や捕殺方法への批判を受け、2点を「改善」してイルカ追い込み猟を行う用意があることを明らかにしました。

2点というのは、「適正な操業体制の確保」と「人道的な捕殺」です。

 

93年に漁業法に基づいてイルカ猟についての規制が行われ、県職員あるいはそれに準ずるものが立ち会うことと、捕獲可能なイルカ種およびに頭数の制限が行われましたが、今回はそれに対して、10年遅れの対応が宣言されたことになります。しかし、これはすでに遅すぎる対応だと私たちは考えています。沿岸のイルカは、科学的な調査・研究がなされないうちに、どんどん消滅しようとしています。 今では、日本の沿岸に、もともとどれくらいのイルカ種のどの程度の数の個体群が生息していたのか、それぞれの群れの大きさと関係はどうなっているのか、沿岸と沖合い、あるいは外洋に生息する種との関係はどうなっているのか、などの情報収集の機会を失しています。その大きな原因の一つは追い込み猟です。追い込み猟は、個体群を消滅させてしまいます。なくなってしまったものを再現することはできません。富戸で捕獲を許可されているイルカ種いずれも、毎年捕獲枠を満たすほどの猟ができない状態です。ほとんどの種が過剰な捕獲圧によって危機的な状況にあります。

 

イルカ猟が富戸にとってなくてはならない産業とはもういえません。主軸は観光産業なので、むしろ収入全体の1%にも満たないイルカ猟は、町に悪いイメージを与え、かえって産業と町の将来に大きなダメージとなるのではないかと思われます。

 

富戸のイルカ猟の背景

96年、富戸で捕獲枠以上のバンドウイルカと静岡県では捕獲できないオキゴンドウの捕獲が行われ、ダイバーの通報でかけつけた私たちメンバーの指摘で残されたイルカの解放と水族館に搬入されたオキゴンドウ6頭の解放が実現しました。県職員の立ち会いは行われず、組合員は違反捕獲という認識もなかったのか「漁師が捕った獲物すべてを捕獲するのは当然」とテレビのインタビューで答えています。また、99年にも、県職員が立ち会う前夜にイルカの枠外の解体を行っている映像をテレビ局が放映しました。

翌日行われた捕獲と解体作業はつぶさにビデオにおさめられ、私たちはそれを水産庁に届け、捕獲方法と捕殺方法の改善を求めましたが、この時点で指導は行われませんでした。この映像は海外に流れ、アデレードで2000年に行われたIWC52回会議でイギリス政府が場外で映像を紹介し(会議場での上映を日本政府が拒否)、捕殺方法の再考を促しました。

漁協への指導はこの年の秋に行われたとされています。しかし、これまでは、解体場を移動して解体するのは採算上問題があるとし、継続はむずかしいとわれていました。今回はこの問題をクリアしたというわけです。

捕殺の方法は水中で噴気孔から包丁を差し入れ、脊髄を切断するというものですが、水の中で暴れるイルカに対して、そう簡単にできるとは思えません。確かに、これまでのように、

  1. フックで船にひきよせ
  2. 尾ビレにロープをかけ
  3. クレーンで釣り上げ
  4. トラックで解体場に運ぶ
  5. そして包丁で頸動脈を切る(暴れるので何回も斬り付ける)

という手順を考えれば時間の短縮はされるかもしれませんが、「人道的」ということばでくくれるかといえば、そうともいえません。

 

伊豆地方でのイルカ猟は、江戸時代に始まっています。しかし、それが盛んになったのは、第2次大戦末期から戦後70代ごろで、その後には捕獲対象であるスジイルカやマダライルカ(別名アラリイルカ)が激減して、それまで猟をおこなってきた稲取、川奈、安来里はイルカ猟から撤退、富戸が唯一残された捕獲地です。においても、イルカ猟はすでに数年に一度の割合で行われるに過ぎず、捕獲枠の大部分をしめるマダライルカ(445頭)はこの10年程捕獲されていません。この周辺のスジイルカ(20頭)は水産庁でも希少種になっています。捕獲できなくなったマダライルカやスジイルカのかわりにバンドウイルカ が捕獲されるようになりました。バンドウイルカは、肉そのものよりも、水族館に売却して売上をのばすのに使われます。水族館にとって、追い込み猟はなくてはならないですが、イメージを守るため「伝統的な漁業」を前面にだして、非難の鉾先をかわしているようです。

しかし、富戸の主産業は観光です。特に、東京近郊という地の利を生かしたダイビングがさかんで、土日にはダイビングを楽しむ人々でごったがえすほどです。2度のイルカ猟の通報も、富戸を利用しているダイバーからです。

観光船の周遊も行われており、この春も漁業の組合幹部の1人がドルフィン・ウォッチングを開始したということも聞いています。狭い富戸の入り江にイルカを追い込み、捕殺するようなことはこうした産業に真っ向から対立するものでしかありません。

 

もう一つの問題はイルカの化学物質高濃度汚染です。99年に捕獲され、地元で販売されたイルカ赤身肉から、魚介類の暫定基準値0.3ppmの20倍ものメチル水銀が検出されています。海洋の汚染の影響をもっとも受けているのは、海の食物連鎖の頂点にいるイルカ・クジラ類です。沿岸のイルカ肉からは、のきなみ基準を大幅に超える化学物質が検出されていますが、こうした肉は地元以外では「クジラ肉」で販売されています。最近では、これまでの水銀の暫定基準値よりもひとけた低い汚染でも脳に影響があるといわれ、環境省も調査を始めています。高い汚染がほぼ確実であるイルカ肉の流通を増大させるようなことはすべきではないことは明らかですが、こうした汚染物質を複合的にため込んだイルカ類の繁殖など、彼らの将来も懸念されるところです。

 

私たちは、富戸におけるイルカ猟再開宣言をとても残念に思います。そして、富戸の将来の発展のためにも、この宣言を撤回されるよう強く望みます。

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