新・生物多様性国家戦略の実施状況の点検結果(第3回)案の意見

イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
事務局長 倉澤七生

『背景』

新・生物多様性国家戦略において、1995年の生物多様性国家戦略の策定時に入らなかった「海棲哺乳類の保護と管理」が明記され、海の動物もわが国の生物多様性保全にとって欠くことができないという認識が生まれたことは、評価できることでした。またジュゴンやアザラシなどについて、それぞれ調査や情報収集、保護管理施策の検討が行われたことは、不十分ではありますが、今後の展開に期待が持てます。一方、沿岸における海生哺乳類の現状が決して楽観的ではないにもかかわらず、その保護・管理に責任のある水産庁は 戦略において産業利用のみに的を絞り、わが国沿岸における生物多様性保全の具体的な施策がないのは残念なことです。

『該当箇所』

III 主要テーマ別取扱方針に関する点検結果 5-1

IV 具体的施策の展開に関する点検結果  6-2, 3

『意見』

「海洋生物資源の保全および持続的利用」では、特にクジラ類について顕著であるように、施策展開に生物多様性保全の視点が欠け、多様性保全にかかわる積極的な施策がない。

→水産庁のように産業推進を旨とする省庁に対しては、環境省が本条約の主旨を十分理解し、施策を実行するように指導できるだけの権限を持つことが必要ではないかと感じました。そうでなければ生物多様性保全は達成できません。

『理由』

III の点検結果の 27 ページ下段に「クジラ類の個体数について科学的知見の蓄積を図るとともに、(中略)持続的な利用の考えが理解されるよう努力しています」とあります。

しかし、野生動物の生息状況を考えるときに、ふつう個体数についての知見だけで保護管理が達成できるとは考えません。IV で言及されている調査とその科学的知見に関しては国際的にも議論のあるところですが、それはさておくとして、まず私たちにとって重要である沿岸の小型鯨類の多くが生息状況を十分把握されていない状態で、資源利用がむずかしいものについては調査すら満足にされていないことを「持続的な利用の考えが理解されるよう努力」するより先に問題にすべきではないでしょうか?

個体数が他と比べて比較的把握されているとされ、利用が可能と判断されて前回 (1993年) 捕獲枠が設定された 8 種の小型鯨類についてさえ、その後減少して捕獲が困難になった種もあるにもかかわらず、調査不十分のため捕獲枠の見直しもできない状態が 12年も続いています。

さらなる問題は、絶滅に瀕している種の扱いです。コククジラ西側個体群は、現在、世界で最も絶滅を危惧されている大型ヒゲクジラで、生息数は 100頭前後であり、繁殖可能なメスは 23頭と推定されています。本年度の国際捕鯨委員会の科学委員会は、メスの損失が続けば近い将来絶滅の可能性が高いと報告しました。しかし、今年の 5月には東京湾でメスが 1頭、そして、7月には母クジラとメスの子どもが相次いで定置網にかかって死亡しました。この予防には定置網の規制が不可欠ですが、日本の周囲は定置網だらけで、その規制もできない状態で、希少なクジラ類が繰り返し魚網にかかって死亡しています。

また、昨年 11月の世界自然保護会議において、このクジラの主な餌場であるサハリン沖で行われている石油開発でクジラの生存が大きな危機に直面しているとし、日本を含む周辺諸国は国家行動計画を策定すべきであるという決議を採択しました。すでにロシア、韓国、アメリカは生態調査などを積極的に進めていますが、日本政府は、生息調査にも参加せず、行動計画を作るどころか、サハリン開発にかかわる日本企業や融資機関の国際協力銀行への働きかけさえしていない始末です。関係者の方々は、新・生物多様性国家戦略の冊子の表紙タイトル「いのちは創れない」に自覚的であってほしいと思います。

また、同 27 ページに「回遊性の高い海棲動物の保護には、国際協力が必要不可欠・・・・」と記述しながら、「クジラが含まれている」として「移動性の野生動物種の保護に関する条約(ボン条約)」の批准が一向に進まないことも非常に残念なことです。

最後に、全般にもかかわることかも知れませんが、単に「実施している」という形や事例の羅列ではなく、実際に条約の目的を達成するために有効であったかどうか、あるいは効果が予測できるのかの点検がもっと踏み込んで記述される必要があります。そうでなければせっかくの試みも小学生の宿題のようになり、点検する意味も、一般が評価する意義もなくなってしまいます。

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