鳥獣保護法の目的「生物多様性の確保」のために
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- 作成日 2006年4月20日(木曜)13:43
同法の理念を損なう80条の削除を
2002年の鳥獣保護法の改正において、同法の目的に「生物多様性の確保」が書き込まれたことは、野生生物保護にとって記念すべき一里塚でした。
しかし、せっかく目的を高く掲げたにかかわらず、第80条に同法の適用除外を認めたことは残念なことでした。80条による適用除外種はいわゆる衛生害獣といわれるドブネズミ、クマネズミと水産庁の管轄する海生哺乳類のほとんどです。
海生哺乳類の除外について、「他の法令でその捕獲について適切に保護管理されている」と書かれていますが、 「他の法令」としての漁業法、水産資源保護法はもともと水産業の振興が目的であって、生物の多様性を掲げる環境省の同法とは主旨が異なり、同列に考えることはできません。実際、これまで海生哺乳類の多くが水産庁版のRDBである「日本の希少な水生野生生物」に何らかの保護が必要とされているものとしてあげられているのです。しかし、資源としての利用価値の少ないこれらの種に関しては、調査さえままならない状態ですし、保護のための唯一の措置は捕獲禁止です。
典型的なひとつの例として、ニシコククジラが挙げられます。コククジラは、北半球の沿岸に生息し、浅海で底生生物を食しています。捕鯨の初期の時代に乱獲されたため、すでに大西洋の個体群は絶滅したと考えられ、東の個体群も絶滅寸前のところを強力なアメリカの海生哺乳類保護法によって回復を果たしました。ニシコククジラも70年代初頭には絶滅したと考えられていましたが、70年終わりに小さな群れが見つかり、アメリカとロシアの調査によって現在は100頭前後の群れであり、繁殖可能なメスが20数頭であることもわかってきました。研究者は、この群れのメスが1年に1頭ずつ死ねば近い将来に絶滅すると警告しています。ところが、昨年5月と7月、東京湾と宮城沖であわせて3頭のメスが定置網に混獲されて死んでしまったのです。このコククジラは「絶滅危惧種」とはリストされていないので、水産資源保護法の対象にもなっていません。
これは一例ですが、こうした状態をどうして適切な保護管理がされているといえるのでしょうか?
このたびの審議会の答申では、これら適用除外種についても調査を行い、保護管理が適切でない場合は見直しをする必要があると書いています。しかし、残念ながら現在のところこの見直しを具体的に進めるための方法はありません。
私どもは、80条の除外を将来的な目標とし、まずその保護管理が適切であるかどうかの評価をするための専門家による委員会を設置し、定期的な見直しが行われるよう求めています。皆様のお力添えを心からお願いする次第です。
以上