捕鯨問題に関する公開質問状

2002年3月22日


IWC下関推進協議会
会長 米澤 邦男様

イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
事務局長 倉澤七生

「公開質問状への回答」


 先日は、私どもの質問へのご丁寧な回答をいただき、感謝しております。こちらもたびたび推進の立場の方からいやがらせメールをもらったり、まったく事実 と異なるような誹謗をインターネットで流されるなど、本筋とは離れたところで悩まされてきました。ですから、相互の不信感を取り除くためにも、このような機会は 有用と信じています。
 こちらの質問に対してのご回答で、そちらの考え方の道筋については理解いたしましたので、遅くなりましたが、2月4日にいただいたご質問に回答させていただきます。どのような形で公開を予定されているのか、お知らせいただければ幸いです。

 回答の前提として、私どもの立場を少しだけご説明申し上げます。
 人間活動が自然界に与える深刻な影響については今さらいうまでもありませんが、地球環境を将来的にも保証していくための基盤となる生物多様性保全は、いまや私たち一人ひとりの責務であるといえます。
 特に経済的に豊かな日本のような国は、地球市民としての自覚を持ってその経済的な影響を考慮し、自然資源の利用を慎むべきではないかと考えています。さ らに、自然環境保全、野生生物の保護に資する支援や国際的な政策を積極的に打ち出すことが国際社会における経済大国日本の義務であり、将来的な利益にもつ ながることを胆に銘ずるべきだと考えています。また、国内では認識が遅れているといわざるをえない自然保護、生物多様性保全の必要性について、産業界をは じめとした国民の教育も非常に重要です。

1.最初に申し上げますが、私どもはクジラにしても、他の野生動物にしても、特定の環境や条件で食べることはあり得ることだと考えています。問題は、その環境なり条件をどのように判断するかという意見の相違であろうかと思います。そのことは、質問2に答えます。

※ そちらの意図は、単に「シカやカンガルーのような野生動物も食べるのだから」ということであるのは分かりました。しかし、このように比較対象とするには問題のある例はかえって混乱を招くので、適当ではないように感じました。

 2.1.に申し上げた環境、条件について申し上げます。

  1. 持続的な利用を可能とする制度
  2. 制度の運用の実現可能性
  3. 特に公海における捕獲や広く回遊をおこなう種についての国際的な価値観の相違のなかでの合意形成


 aについては、基本的な考え方としては可能であると思います。しかし、実際に制度を保証するための条件をどの程度緻密に設定するかが問題です。現在、南 極海のミンククジラの推定個体数が仕切りなおしされていましすし、系統群をどのように判断するかについても議論のあるところと聞いております。そうした条 件をどの時点で合意し、線引きするのかは、制度を運用するための必然性との兼ね合いだと思います。
保護を望む立場からは(フィードバックのシステムを取るにしても)スタート地点の条件がより安全性の高いほうが望ましい一方、捕鯨を推進する立場からは出来るだけ速やかに始めたいと考えるではないでしょうか。
 現在の日本において、どの程度の捕鯨活動が実際に必要であるか、不可欠と考えられるかというところが非常に不明瞭です。産業というのは、持続的に拡大を求め流通の拡大を図り、そのための様々な方策をとります。しかし、それが実際に求められているかどうかとは別です。
 さらにいえば、野生生物は、こうした産業の必然性には不向きなものですから、「持続的な野生生物利用」というのは現在の産業・経済に見合うものではないと思います。
 もし、クジラの捕獲の必然性がこれまで消費されてきた地域での伝統食と限るならば、商業捕鯨の再開でなくても他にも方法はあります。私どもは、現時点で日本は商業捕鯨(特に公海における商業捕鯨)を開始するだけの必然性をもっていないと考えています。

 bについていえば、これまでの捕鯨の歴史で繰り返してきた乱獲と管理の不十分さをどれほど払拭できるかという信頼関係、捕鯨に参入してくる可能性のある他の国などを視野に入れた管理システムについて、安全の保証がまだ不十分だと考えています。
特に他の国からクジラの輸出先とみなされている日本の責任は大きいと思いますが、その点でいうと、国内市場管理に第三者機関を認めないという昨年度の日本 政府の決定や定置網の混獲クジラの商業流通を許可したことなど現在の日本の状況では、公正な管理の障害になる可能性が高く、厳格な制度の運用は困難と思わ れます。

  cは、主に公海と広い海域を回遊している種については、捕鯨者だけが当事者ではないということ派、いう迄もなく国際的な共通認識です。従って、「資源 である」という考え方と同時に「存在そのものに価値がある」という価値観が区立されている以上、「絶滅しない」という科学の結論だけで商業利用の正当性を 図るわけにはいきません。
 さらにいえば、現在のように気候の変動、海洋汚染など、生物の生存に対しての脅威が多様に存在する場合、科学の結論そのものが立場や価値観によっても異なる場合があることはいうまでもないことです。

3.この質問は先住民の捕鯨に反対する意見なのかと最初考えました。しかし、そうではなくて「先住民のやり方でも許可されているのに何故日本が?」ということであると理解しました。
 私どもは「伝統であれば何が何でも許される」とか「先住民が行えば何でもいい」と考えているわけではありませんが、その生活の中で、クジラ肉が栄養分の かなりを賄っており、他の代替物がないこと、商業的に流通するのでなく、その地域内消費が前提など特定の条件のもとで認められるべきと考えています。複数 の人たちから聞いた話では、「日本に売りたい」ために捕鯨を再開したいと考えている先住民もいるそうですすが、それは論外です。
 生物多様性保全の観点から、種の絶滅を促進するようなことは回避しなくてはなりませんので、改善すべきところがあれば、どのような理由であれ検討すべきでしょう。
 しかし、限定された先住民の捕鯨と比べ、日本の場合は、商業的な流通の規模やシステムが全く違っていますし、これまでの違法な肉の流通や沿岸での違反の事例などをみれば、管理はかなりむずかしいのではないかと想像します。

4.食文化が「それぞれの地域の風土、環境等により歴史的に形成されてきた」ということはまさにそのとおりと思います。その点からいって、まず南極海での捕鯨は伝統ではないと考えます。
 そのことに関して、貴協議会から小麦粉やそば粉、大豆輸入を例にとって「食文化を議論する上で現在の食材の原産地を問うことは殆ど意味がない」というお答えが返ってきていますが、私たちはこの考え方には反対です。
 食料の自給は持続可能な社会の前提です。しばしば問題となるように、自給率を上げている他の国々と比べ、日本は食料の輸入大国で、70%以上の穀物を世界中から輸入し、大量の残滓を出しています。持続的な社会とは全く正反対のところにいるわけです。
 食料の国際的な取引の問題点は、生態系破壊と飢餓促進です。食物を工業製品のように大量生産する結果、土地は疲弊し、再生産するためには大量の化学物質 の投入が必要となり、生態系は破壊され生産物は汚染され、生産者の健康は損なわれます。その結果土地は砂漠化し、一部地域の飢餓が促進されています。一方 で、輸入された大量の食品は、その食品に含まれる化学物質が健康に悪影響を与える恐れがあると同時に、輸入国に過剰な窒素をもたらします。過剰な窒素は水 系の汚染をまねいています。

 食料の輸入と同じように、遠い海に資源を求める産業としての捕鯨は、古来から続いてきた伝統的なものではありえません。将来の世代を考えれば、今、私た ちがこれ以上産業拡大をするのではなく、地域で定置網にかかったり、座礁したクジラの管理を行い、これまで伝統的に食べてきた人たちが食べ続けるための手 だてを工夫するところからまず始めたらどうかと思っています。公海では、将来的にクジラを食料としてどうしても必要とする国や民俗があったときに、どのよ うに利用すればいいかを検討すればいいのです。
 伝統的な食文化がなぜ持続可能であったかというと、地元での循環が人間の判断のおよぶ範疇にあったからです。見えないところでの生産や収奪は、いくら持 続性をいっても限りがあります。国際間の競合など、ルールを決めるだけで果して持続的な利用が可能であるかどうかこれまでの漁業を考えると疑問です。
 農薬や化学物質を多用しない健全な農業や漁業は、健全な地域の生態系に支えられているからこそ、私たち人間の健康をもたらすのです。そこでとれた穀物や 魚、海草、旬の野菜などを使った料理こそ伝統的な食生活の基盤です。一部地域は別として、クジラ肉が国民全体に食べられたのは戦後の食料難であり、すでに 50年代後半に他の畜肉が販売されるようになると消費が落ち込んだという事実と重ね合わせると、クジラがどの程度この範疇に入るのかは疑問の残るところで す。
 さらに加えて、この間、クジラ肉の化学物質の高濃度複合汚染が問題となっています。食物連鎖の頂点に位置し、温血動物で長寿のクジラ類は、ほかの魚類に 比べてもその汚染濃度は格段に高く、中には急性毒性も考えられるほどの高汚染値が測定されたものもあるようです。食べることは個人の自由であっても、こう した汚染の情報、警告は、消費拡大キャンペーン以前に是非とも必要なことではないかと思います。

 私たちは、漁業技術の進歩や流通の規模の拡大による乱獲と沿岸の開発とともに、遠くに出掛けて魚資源を大量に持ってくることができたことが身近な海の疲 弊や汚染を許してしまった原因の一つではないかと考えています。持続性を本当に考えるならば、これからは、もっと沿岸における小規模な漁業を再生させる努 力を優先するべきだと思います。産業の側からみればつらいことかもしれませんが、これからの地球環境や子供たちの将来を考えた時に、結果的には賢い選択で あるはずです。

以上

insurance
insurance
insurance
insurance