捕鯨問題に関する公開質問状

2002年2月26日


イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク事務局長 倉澤 七生殿

IWC下関会議推進協議会
会長 米澤 邦男

「いくつかの疑間について」(回答)


 私どもの公開質問状に対する「いくつかの疑問について」と題する書簡を確かに受領しました。貴書簡の中に、小事にこだわらない公正で前向きな意見交換に努めたいとありましたが、「クジラ保護連絡協議会」の構成メンバーの属する上部機構については、長年の個人的な苦い経験からも、誠意とか信義の面で重大な 疑問を持っており、私の不信感は容易に拭い難いものがあります。しかし、ともかくも、貴団体から公正かつ前向きな意見の交換を通じて、捕鯨間題の解決のために努力をともにしたいという申し出を受けたことを歓迎したいと思います。また、これからの貴団体との意見交換も、 フェアープレーに終始し、論争のレベルも、十分に知的・理性的なものにしたいと願っています。貴団体の質問、この回答など、今後の意見交換は全て公開を前提にしたいという御申出は、私どもの願 いでもあります。当方の質問に関する「疑間点」につきましては、下記の通り回答しますので、当初の公開質問状にご回答を頂く際には、これを前提として行わ れるようお願い致します。


1.当方の質問1及ぴ2関する「疑問点」について

当方の質問1及び2は、要するに、鯨類資源についての持続的利用の原則の適用とこれのIWCの場における具体的な実現についての貴団体の賛否の意見を間う ものであり、相互に関連しておりますので、貴団体の「疑間点」についても一括してお答えしたいと思います。貴団体は、鹿、カンガルーのような陸上の野生動 物との対比において、繁殖率や管理の態様、間引きの科学的な根拠などを問題とされていますが、これらをふまえて問題点を基本的に整理すると、次の2点に収 敏されると思います。

  1. 鯨類資源の安全を保障するためには、いかなる場合にも食用などのための利用や間引きを禁止しなければならないとする科学的理由があるか?
  2. 利用や間引きの禁止はないとしても、資源の安全を保証しうる捕獲枠を決定する具体的な方策があるか?

(1)の点については、1991年のIWCの年次会議で米国の首席代表は、米国が捕鯨再開に反対する理由は、再開に国内の支持がないからだと述べています し、1991年当時の英国食糧農漁業相ジョン・ガマーも、英国の反対は倫理的に反対だからであり、科学は関係ないといっていることを指摘しておきたいと思 います。IWC科学委員会のメンバーの中には、反捕鯨勢力から送り込まれた科学者がおり、かって、その中には、シドニー・ホルトやジョン・ベディントン、 ジャスティン・クック、ビル・デラメアーなどグリーンピースやIFAWなどの団体と深い関係のある学者がいました。その一部は今も含まれております。したがって、貴団体もIWC科学委員会での議論については、十分ご承知のことと思います。であるとすれば、(1)の点については、科学的根拠が存在しないこと も十分ご承知のことと思いますし、このことは、上記のように反捕鯨国自らが明確に認めているところです。
(2)の点については、IWC科学委員会が1992年に、あらゆる不測の事態や科学的不確実性を考慮に入れて資源の安全を保証する捕獲枠の算出方式である 改訂管理方式(RMP)を採択し、IWC本会議も1993年にこれを採択しております。このことは、貴団体も十分ご存じの通りです。RMPの採択は反捕鯨 国や反捕鯨団体にとりショックでした。特にニュージーランドは衝撃を隠せず、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)のジュネーブ準備会議に、捕鯨10年禁止決議を翌年の地球サミットに提案したいと提案しました。面白いのは、その時ニュージーランド政府が配布した提案書です。文書は、ニュージーランドのIWC首席代表であったイアン・スチュアートが用意したもので、その中でこういっています。「RMPを科学委員会が全会一致で採択した以上、もう IWC条約の下での捕鯨の再開は防げない。これを防ぐためには地球サミットで捕鯨の10年停止決議を採択し、その上あらためて捕鯨禁止条約を採択するほかに道はない。」正直なステートメントですが、ニュージーランド提案には十分な支持はなく、この提案はニュージーランドにより撤回されました。しかし、 ニュージーランドは、その後も執拗な反捕鯨の立場を崩さず、RMPの実施をありとあらゆる手段に訴えて妨害しています。鹿やカンガルーの繁殖率が鯨に比べ 高いかどうかは、問題の本質とは関係ありません。どのような野生動物であれ、資源の増加量が死亡量を上回るのであれば、科学的に最適利用のレベルで、その余剰を適切な管理の下で利用することが可能です。個体管理に成功した例があるかという質問も、随分科学的に見てあいまいな質問ですが、これにも答えることにしましょう。RMP以前に、IWCは新管理方式(NMP)という制度を持っていました。NMPの下では、資源が、最大持続的生産水準を与える資源量(難しいですが、資源の成長量がもっとも高い水準であり、密度的に見て最適水準と考えてもよいでしょう)の90%を上回ると判定された時には、一定の捕獲 (年々の増大量を下回るという条件付き)を許し、これ以下の時には一切の捕獲を禁止するというもので、これを適用して以後(1975年以降)IWCの規制対象鯨種の中に衰退した種は一つもありませんでした。新たに開発されたRMPは、さらに徹底し、科学的情報の不確実性や環境変化などの不測の事態にも資源 への危険を防止する十分な安全装置を内蔵しているものです。また、IWCにおける鯨資源の管理は、系統群(地域的にまとまった繁殖集団)ごとに行われます。RMPも、正に系統群ごとの管理に適用されるものです。今、豪州、ニュージーランドなどウルトラ反捕鯨国は、RMPを実施するっもりはないと広言してはばからず、豪州は、国際的な監視取締システムを含む改訂管理制度(RMS)の審議をもボイコットしています。条約を守る気もなく、条約の中で一旦約束し たことも実施する気がないというのであれば、条約を脱退するのが筋ではないかと私どもは考えます。鹿もカンガルーも陸上の哺乳動物であれば利用しても良い、生まれたての羊の赤ちゃんを殺して食べるのも一向に構わないとする一方、鯨などの海産哺乳動物は、資源に影響を与えないほどの少量でも利用することを倫理上許せないということはどういうことなのでしょうか。貴団体も、このような反捕鯨国の立場を支持しているのでしょうか。私どもの質問の趣旨は正にそこにあります。また、貴書簡の中で、捕鯨の実現可能性と国際的な合意では結論が異なる場合も考えられると述べていますが、現状においてIWCで多数派を占める反捕鯨国が国際捕鯨取締条約の規定を無視した運営を行っているためにそのようなことが起こるのであって、IWCが条約の規定に従って正常化されるならば、捕鯨の実現可能性と国際的な合意が異なることは有り得ないと考えます。

2.当方の質問3に関する「疑問点」について

質問3は、捕獲頭数の管理についてご意見を伺っています。具体的にいいますと、資源が希少なクジラ、例えば資源量が約7,500頭と推定されているホッ キョククジラについては毎年60頭近くの捕獲が米国に認められている一方、日本近海の資源量約25,000頭のミンククジラに関しては、我が国の沿岸捕鯨地域の窮状を救済するための暫定捕獲枠50頭の要求すら認められていません。クジラの捕獲が資源に与えるダメージについては、むしろ後者の方が少ないと思いますが、如何でしょうか(もちろん、捕獲枠がしっかりとした管理制度のもとで行われることが前提です)。

3.当方の質問4に関する「疑問点」について

文化というものは、人間が自然環境に適応して生活をしていく上で、先人達が作り上げてきた、諸活動や生活習慣を含む全ての包括的なものです。この点、原住 民生存捕鯨は立派な食文化を持っていると思いますし、日本の捕鯨も同様と考えています。日本についていえば、耕地面積は少ないが、四方を海に囲まれているという環境を生かして漁業や捕鯨が発達し、米食と魚介類・海藻を中心とした、独自の食文化が形成されてきました。遠洋漁業や南氷洋捕鯨でとられた魚やクジ ラも、日本独特の料理方法によって食卓に並び、米と水産物を主体とする食文化の流れの中で大きな役割を果たしてきました。私どもが「それぞれの地域の風土、環境等により」という意味はそこにあります。ちなみに、現在では地域固有の食材ではないものでも、立派に日本で食文化として残っているものがたくさんあります。例えば、うどんやそばの原料は米国やカナダ、中国から輸入された小麦粉やそば粉が使われていますし、納豆や豆腐のもとである大豆はほとんどが米国やブラジルから輸入されています。これはほんの一例ですが、こう考えると食文化を議論する上で現在の食材の原産地を問うことは、殆ど意味がないと思いま す。

最後に、誤解していただきたくないのですが、私どもは、資源を絶滅させてまで、食文化を維持しようと主張しているのではありません。持続的利用が可能な水準の豊富な資源について、科学的に許容できる範囲内の利用により、クジラの食文化も維持されるべきだと考えています。

再度、できる限り早いご回答をお待ちします。


上記IWC下関会議推進委員会会長からの回答に対するIKANからの回答はこちら
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