第54回IWC下関会議報告

02061201 5月20日から一週間、山口県下関市で第54回国際捕鯨委員会本会議が 開催されました。イルカ&クジラ・アクション・ネットワークからの報告です。


「アイスランドの参加問題」
 会議は最初から荒れ模様でした。「新規参加国にアイスランドが入っていないのはなにごとか」という日本の抗議にたいし、議長が「昨年すでに議論され結論が出ているように、アイスランドがこのまま(モラトリアムの)留保を取り下げない限りは参加を認めるわけにはいかない」と議長裁量で進めようとしましたが、議長への不信任投票にまで発展。結果は議長に軍配があがったものの 、アイスランド問題は、国内ではご存知のように「反捕鯨国による参加阻止」と報道されました。
 アイスランドの再加盟問題は、ワシントン条約がらみでクジラ肉の国際取引が可能になった際、取引するための条件として加盟が必要であることと考えられています。

 今回新規参入したところは、モンゴル、ガボン、パラオ、、ポルトガル、ベニン、サン・マリノ。借金を払ったロシアも復帰しました。
 議長のフェルンホルムさんはどちらかというと、議論を合理的な進め方でさっさとすまそうというきらいがあり、それが捕鯨推進側のいらぬ怒りまで買ってい たような気もします。ともかく、いちいち本題でないところでひっかかることがあり、スムーズにはすすまない会議ではありました。

「RMS」  管理について、『内容は先延ばしでモラトリアムを終焉させ、捕鯨を始めてもいいじゃないか』日本対『ハードルは高い方が安全、管理の細部についてきちんと決めよう』保護側の意見対立。そのさなかに、スエーデンから妥協案が出ました。サンクチュアリは継続し、自国経済水域で改訂管理方式によって捕鯨し、肉は自国内流通、というもの。しかし、日本政府も含めこれには反対が多く、否決されました。
 その後は作業部会を召集して内容の詰めを早く進めるため、10月に会合が設定されました。

「サンクチュアリ」
 オーストラリア、ニュージーランドの提案による南太平洋サンクチュアリ は「モラトリアムで捕鯨は禁止されているから必要ない」、「リオ・サミットによる持続可能な利用に反する」という日本をはじめとした捕鯨国の勢力にはばまれ、4分の3に達しませんでした。
 ブラジルの提案する南大西洋サンクチュアリも同様に通りませんでした。 自国周辺海域を保護区にしたいという主張を、クジラを捕りたい国が「科学的ではないからいやだ」といっているのはいささか釈然としないものがあります。
科学委員会では、科学者の意見が異なり、どちらとも結論づけられないというのが議長報告でした。

さらに、日本は、今回見直しのインド洋サンクチュアリの継続にも反対しました。インド洋でクジラがマグロを食べ過ぎて地元の人が困っているからというのがその理由です。しかし、日本は政治的すぎ、科学的根拠に欠けると指摘されると、すぐに引っ込めました。

「オーストラリアとニュージーランドはIWCから出て行けば?」
 2日めの火曜日、水産庁はオーストラリアとニュージーランドのサンクチュアリ提案について、両国に対してIWCは捕鯨の管理をするためで、クジラ保護の 場ではないと何度言っても分らない。理解してとどまるか、でなければIWCから出て行け、というプレスリリースを出しました。業者の集まりだった時には決 して管理を達成できなかった過去について、いくらかでも責任を感じている発言とは思えません。また、国の正式の文書としては格段に恥ずかしいものだと思い ませんか?

「沿岸捕鯨の再開要求」
 内閣府調査でさえ、捕鯨支持の内容は「沿岸捕鯨ならいい」というものでしたが、これまで日本政府が沿岸捕鯨に熱心だったためしがないのは多くの人が知っているところです。93年から、各国は公海を断念すれば沿岸捕鯨の暫定枠を受け入れる可能性があると考えられてきましたが、沿岸の業者を管理しきれないと いう弱味と、これまでの主張からいって、小規模に再開することで正統性の看板を降ろすわけには行かないと言うのが本音ではないかと思います。
 今回は、調査捕鯨に沿岸捕鯨の暫定枠と同数の沿岸ミンクを新規に付け加え、これまで沿岸捕鯨を要求してきた4つの民間捕鯨会社に委託して実質ゴーサインを出しました。さらには後で述べる先住民捕鯨で政治的な駆け引きの材料にし(採決の結果は読めるので)、かつ沿岸業者に恩を売って京都会議のようなみっともない土下座劇は避けたのではないかと思います。

「調査捕鯨」
 今回、日本政府は、北西大平洋の調査捕鯨枠をこれまでのミンク100頭、 2000年から加えたマッコウ10頭とニタリ50頭に加えてイワシ50頭と沿岸ミンク50頭を加え、総数210頭に拡大しました。これについては、生態系アプローチということで、パワーポイントを使った調査捕鯨の紹介が行われました。今回のメインテーマとも言うべき「増えるクジラ、減る魚」の映像版ですが、アデレードやロンドンでのプレゼンテーションと代わり映えのしないものでした。海洋生態系などに専門性の高いモナコ代表など、始まる前に席を立つもの も目立ちました。
 イワシクジラの減少には日本の捕鯨が大きく関係しています。胃袋を割いて何が出てくるか調べることがそれほど重要でしょうか? 食物や系統群、性別や寄生虫の有無はクジラの皮を採取できれば調べられるので、殺すまでもないと言う複数の科学者の意見もあります。ミンクよりも効率のよいでっかいクジラを捕獲し、また、沿岸民間業者委託によって彼らへの配慮をみせることと生肉供給が目的だと大方の人たちが見抜いています。
 しかしながら、残念なことにはこの討議は後で記述する先住民捕鯨問題が長引いて、来年に持ち越されてしまいました。

「ド-キンズ博士ら世界の著明な科学者21人が日本の調査捕鯨を批判」

 これを先立つ20日、NYタイムスに意見広告が掲載されました。日本政府の調査捕鯨に対する非難で、世界の著名な科学者21人の署名入りで、その中には3人のノーベル賞受賞科学者や、日本でも有名なリチャード・ドーキンスさん、デビット・スズキさんの名もみえます。内容は「日本の調査捕鯨は、最小限の基準に照らしても科学的な根拠を失している」、「商業的な本質の捕鯨プログ ラムは科学の独立性とは相容れない」というような厳しいものです。日本の中では、捕鯨に反対していても調査捕鯨は科学的と思い込んでいる人たちもいますが、世界の科学者にはっきり否定されたことになります。

「先住民捕鯨」
 「我々はもう(沿岸捕鯨を否決されたので)失うものはないわけで、彼ら(アメリカ)のほうが必死でしょう」これは、アラスカとロシアの先住民捕鯨について「日本の沿岸捕鯨を認めないなら賛成しない」と言い張って、先住民捕鯨のカテゴリーが世界中で一番あてはまるイヌイットの捕鯨枠を否決に持ち込んだ小松正之参事が会議の合間に外で待っていた記者たちにいったことばです。イヌイットの代表の悲痛な意見陳述も彼には駆け引きの一部としか写らなかったのでしょう。
 19日とそれに続く22日の長いコミッショナー会議で、いったんは合意による解決(投票はしないということ)が決まったにかかわらず、日本は会議の席上で強引に投票に持ち込むという信じられないような態度をとったとの批判に対して日本は反論しませんでした。
 日本の反対する理由は、「ホッキョククジラは世界でもっとも絶滅を危ぶまれている。そのクジラを捕らせて、何で増えているミンクはだめなのか」ということと、「RMPでなく先住民捕鯨枠を別に定めるのはダブルスタンダード」というわけです。これについては、めずらしく科学委員会議長までが「ホッキョククジラは増えつつあり、提案されている捕鯨枠は問題ない」と発言しました。この間の長いIWCの歴史の中で、日本は常に沿岸における捕鯨を先住民生存捕鯨と同様にみなすように訴えてきました。しかし、「角を曲れば食料がすぐ手に入る日本」と、隔絶され、昔からの生活様式を守って暮らすイヌイットでは状況が異なります。さらに、日本の沿岸で捕鯨したものは商業流通を前提としたもので、地元消費のためだけではありません。しかし、日本は、先住民捕鯨との交換条件に、沿岸捕鯨業者に25頭の枠をくれれば認めると言う動議まで出しまし た。議長から「(先住民生存捕鯨と商業捕鯨とでは)カテゴリーが違うものだから動議として認められない」といわれてもひるまず、強引な駆け引きを試みました。こうしたやり方は、自ら会議そのものの質をおとしめ、混乱させるものでしかありません。政府や業界は「IWCが機能不全に陥っている」と言いますが、 一体だれがそうしているのでしょうか?

   一方で、セントビンセント&グレナデンのザトウクジラの捕獲枠は2頭から4頭に拡大。すでに捕鯨従事者が高齢化して、引退するとされていたのですが、結果的には継続になりました。付け加えると、ここでの猟法は、子クジラを傷つけて捕獲しておき、助けにくる親クジラを殺すと言う方法で、これまでも論議の対 象でした。 また、マカ族とロシアのチュクチ族のコククジラ猟はすんなり通りました。アメリカとロシアの先住民捕鯨についての共同提案というのもうさん臭いなら、この中味もなかなか問題がありそうです。マカは以前、ザトウクジラの捕獲を行っていました。しかし、ザトウクジラが絶滅を危惧されているなかで、マカの捕鯨は70年間も中止されてきました。アメリカ国内でもマカによるコククジラ捕鯨に反対している人がいますし、部落で唯一反対しているマカの女性は毎回会議に出席して、反対を訴えています。 チュクチでは、コククジラの肉は毛皮用のミンクの飼料としても使われています。先住民捕鯨の運用の是非については今後も論議が必要だと考えますが、 これらについては問題にせず、イヌイットの捕鯨に反対することが果たして日本にとってプラスとなったかとても疑問です。
 一体、小松氏はこれについてどういうのか、十重二十重に囲む記者さんたち にまじって話を聞いてみました。「みんながIWCについて考え直すいいきっかけを作ったと思う」というのが彼の言い分でした。世界の流れや会議に参加している人たちのことはなく、アメリカとの勝ち負けだけが頭にあるようでした。

「メディアの対応」
  始まる前は、いろいろと言っていたメディアも、ふたを開けてみれば、かの小松参事のおっかけと転じ、会議に参加してその推移を正確にとらえるものは少数でした。それでも、地元記者はよく勉強しており、地元紙にはこれまでの報道とはかなり違ったものもみられました。残念なことに、ワールドカップと重なり、紙面が限られたせいもあってか、地元記者の意見が反映されずに、ほとんどが編集委員や論説委員の10年一日の代わり映えのしないコメントに終わってしまいました。特に何人もの人たちから批判がでていたのはテレビ朝日の報道です。せっかく日本で会議が行われ、レポーターも下関に来ていたのにかかわらず、先に予断で番組が編集されていたとみえ、これまで繰り返し行われてきた政府キャンペーンの焼き直しで、さらには日本の沿岸捕鯨業者の悲哀と先住民との明らかに異なった生活をオーバーラップさせ、商業流通と地域消費を混同して理解するという過ちをおかしました。確かに、事前にある程度の知識がなく参加して、日本政府の言い分(だけ)を聞いていれば分らないことはたくさんあるだろうと思います。それだけに、熱心な取材をおこなってきた地元の記者の記事をもっと積極的に掲載してほしかったと思います。

「下関」02061202
下関は、近代捕鯨の発祥の地と言われます。乱獲の歴史を背負っているわけですが、町の人たちはいずれにしても捕鯨再開にたいしては以外とクールでした。参 加した諸外国の人たちがこぞって感激したように、町の人たちは親切で、前回の京都での不愉快な思い出とは全く違った結果となりました。心配した右翼の街宣車も会議場近くには入れず、19日のシンポジウム会場の外でしばらく騒いだだけに終わり、ほっとしました。160台もの街宣車がお出ましだったのですから、何かあっても不思議はなかったのですが、地元警察や市の関係者のガードがかたく、私たちも安心してイベントや海外ゲストのパフォーマンスの手助けができました。イベントに手弁当で参加してくれたシンガーの稲谷さん、近隣から馳せ参じてくれたボランティアの方たちにも感謝したいと思います。

 来年のIWC会議はドイツ、ベルリンです。

insurance
insurance
insurance
insurance