第55回IWC会議傍聴報告
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- 作成日 2003年7月04日(金曜)09:48
第1日目
今回の大きな争点となったのはいわゆる『ベルリンイニシアチブ』とよばれるクジラ保護委員会設置の提案でした。会議が開始される以前から、日本でも一部で危機感をもって論じられたようですが、提案する側はこれまでの会議において100以上のクジラ保護の決議案や勧告が採択されているという前例をあげ、IWCにおいて特別に目新しい内容のものはないということを強調しました。
クジラ保護委員会の設置は、これまでの議論を生かし、科学委員会からのアドバイスのもとに
保護の観点から生態や混獲対策、海洋汚染など幅広い保護のための調査・検討を行おうとするものです。その調査・研究に、在野の研究者や活動に携わるNGOに資金援助を行うことも含まれています。
日本政府は最初に行われた議事内容採択についての議論で、クジラ保護委員会の設置を始め、クジラの捕殺方法/動物の福祉について、ホェール・ウォッチング、南太平洋及び、南大洋サンクチュアリ、沿岸小型鯨類についての議題が「捕鯨産業の健全な発展に反する」と削除を要求しました。これにカリブ諸国が加わり、またもや議長不信任に発展。議論の末に議長裁量が支持され、日本政府は「日本はこうした保護に関する委員会には参加しないし、金も出さない」と宣言、その後、本会議でいくつかの議事のボイコットを行いました。
午後から行われた保護委員会の設置については、まず提案国の一つであるメキシコの代表が「私たちは過去において、大型クジラの大量捕殺を行い、彼らを絶滅の淵に追いやった経験がある。現在、人間の行うこうした捕獲行為だけでなく、海洋汚染や混獲、気候変動などがクジラの生存に影響を与えている。したがって、クジラの頭数管理だけでなく、海洋生態系保全を含むクジラ保護の検討を行って、未来の世代にクジラ資源を手渡せるのかどうかが真剣に問われている」と印象的なプレゼンテ−ションを行いました。
日本政府は、「日本は9千年に及ぶ長い捕鯨の歴史の中で、十分に保護を行い、持続可能な利用を行ってきている」とし「アメリカやイタリア、イギリスなどがクジラの体の10%にしかならない鯨油のために日本沿岸のセミクジラやコククジラ資源を大量に捕獲して網取り式捕鯨の存続を不可能にし、またその後、アメリカ、ドイツ、オランダ、南アなどいま保護委員会設置を提案している国々が南極でシロナガスの大量捕殺を行ったため、いまだに資源の回復が見込めない。それに引き換え、日本はクジラをすべて利用してきた」と非難。
また、「提案が条約で決められている60日を守っていないので無効である」と議題としての正統性を事務局長に問いただす場面もありました。IWC事務局はこれに対して「一部内容に未提出のものがあったが、提案そのものは条約の要求を充たしている」とこの議論を退けました。
<コメント>
- 日本政府の言い分からは、この委員会の設置そのものに反対する論理的な根拠は見当たりません。この委員会のことを「『トロイの木馬』であって、捕鯨そのものの息の根をとめるものだ」と非難するのも理解できないではありませんが、商業捕鯨に反対している国々は逆に「日本はこれだけ莫大な資金をかけて行うのだから、きっとそれに経済的にも見合うだけのものを得られる見通しがあるにちがいない」という不信感を抱いています。
- 日本のメディアの伝え方も「保護委員会はどんな内容なのか?」と言うような内容の紹介は一つもなく、おうむ返しのように「捕鯨の息の根をとめる」などと書いています。内容を把握しないまま反対する「保護アレルギー」にも困ったものだと思います。
- 日本政府の立場に立つのは本意ではないのですが、本当に解決するつもりであれば、積極的に保護委員会に貢献してそのかわりにモラトリアム解除を働きかけるというような技があってもいいのではないかと思います。ですが、日本政府代表団は国内における捕鯨推進派の意向をうけ、こわもての姿勢を崩しませんでした。
- これに比べて、保護委員会に同じく反対した韓国はスマートだったと思います。
捕鯨を再開したい意向の韓国は、これまで密猟・密売買などを批判されており、国内では大きな問題をかかえています。しかし、IWCにおいてはきちんと議論に参加し、場合によっては保護のための調査を約束し(コククジラ)、捕鯨推進の意見であっても、納得行かなければ反対するという(ニタリクジラ沿岸捕鯨について)態度には好感がもてました。
- 「内容は理解するが、時間をかけた議論が必要」とする意見もありましたが、互いに意見がすれ違ったまま採決されたのは残念なことではあります。まあ、こうした立場の違いが簡単に埋められるものとは思いませんが、日本など捕鯨国の不参加で、この委員会がもともと期待している捕鯨側への拘束力のないものになる可能性は高く、そういった意味では「何も変わらなかった」といえるかもしれません。しかし、モラトリアムから改訂管理方式(RMP)という新たな資源管理方式の完成と管理制度(RMS)の検討、サンクチュアリ設定、そして保護委員会と、IWCは地球環境に貢献しうる国際会議ではもっとも質の高い議論の場となっていることに注目してください。日本政府にしても、これまでのいきさつから、自らきちんとした資源管理を始めたとは到底考えられず、こうした議論に促されて、持続的な資源管理と利用について取り組まざるを得なかったわけです。
1日目の議題の最後はホェールウォッチングでした。予告通り、日本政府代表団とカリブの国々は退席。静かな議論となりました。
ホェールウォッチングの今年の検討は主に以下の3点です。一つは関連グループのホェールウォッチングによるクジラのデータ収集と管理についてのワークショップ、ガイドラインと規制づくりによる効果とその受け入れ状況、そして、新たな産業としてさかんになっているスィム・ウイズ・ドルフィン/ホェールプログラム問題についての情報の検討です。
日本政府はクジラ利用の産業としては「邪道だ」とIWCの検討課題として認めませんが、捕鯨から撤退した国々や捕鯨国でさえ毎年勢いをますホェールウォッチングは、今や世界中でたいへん大きな産業に成長しています。ニュージーランドをはじめとした推進派は「これぞ究極のクジラの持続的利用」と主張、IWCができた当時にはなかったホェールウォッチングを「whaling」ということばの範囲に新たに含めたいと考えています。
- 「whaler(捕鯨者)にはホェールウォッチング業者も含まれる」というような発言は日本語的にはヘンに感じるかもしれませんが、クジラ利用ということについては、世界の流れはホェールウォッチングに軍配があがっていることは確かです。日本政府はホェールウォッチングがIWCの話題ではないといいますが、一方でホェールウォッチングが盛んな国にとって自国近海での捕鯨は一大事なので、IWCでの議論は必須と考えているのです。
ホェールウオッチングに携わる人たちは多様で、捕鯨産業とは異なり、条件さえ整えば地域で小規模に行うことも可能なので、先住民や小国の中でも自立した産業として実施されています。ウォッチングの傍らでクジラを殺されたらたまらないと毎回IWCに参加して、クジラ利用のオルタナティブを訴えるウォッチング業者もいます。捕鯨再開の急先鋒として発言しているアイスランドでも、同国の観光協会は、捕鯨再開が観光に大きな打撃であると反対の声明を出していますし、日本でも、静岡県の富戸で、元イルカ猟の漁師だった石井泉さんがウォッチングに切り替え、その方が収入としていいと他の人たちを説得しています。いくら日本政府がいきり立っても、こうした流れをとめることは不可能なのではないかと思います。
第2日目
<クジラ個体数について>
2日目の最初は新科学委員会議長のダグ・デマスターズ博士のクジラの個体数についての報告で始まりました(日本政府とカリブの国々はこの議事をボイコットしました)。
南極海では、IWCによるクジラの個体数と生態系調査プログラムーSOWER(Southern Ocean Whale and Ecosystem Research)が行われています。2000年のアデレード会議で「もう76万頭という数字は正確とはいえない」とされた南極海のミンククジラの新たな個体数推定の算出は、天候条件などが整わなかったために調査が進まず、再び来年に持ち越されました。オーストラリアは日本がミンククジラの捕殺を続けていることに対して遺憾の意を表し、ニュージーランドは個体数減少を懸念しました。ノルウェー代表は、いずれにしても南極のミンククジラの数は多いので、日本の調査捕鯨による捕殺は問題がないという意見を出しました。
一方、シロナガスクジラの個体数は一部で増加が見られる他は相変わらず懸念される状態という報告がありました。南のザトウクジラについてはいくつかの個体群で増加が見られるが、調査の継続が必要とされました。
地理的隔離があり、個体数が少ないために絶滅を懸念されるいくつかの個体群についての報告が続きました。
一つは北大西洋のセミクジラで、現在の推定個体数は300~350とされていますが、船との衝突など、深刻な問題を抱えて下り、アメリカは衝突を最小限にするための回避システムの導入を提唱しました。ニシガワ(アジア系)コククジラについては先だってお知らせした通りに、油田開発でかなり危機的な状況にあり、科学委員会は、油田開発におけるアセスメントの必要性と保護への周辺諸国の参加を要請、昨年ワークショップをウルサンで開催した韓国がさっそく参加を名乗り出ました。残るは日本ですが、水産庁は6月12日の種の保存法議論で共産党の岩佐議員の追求に、「ロシアの要請があれば」とまったくひとごと。「もともと持続的な利用をしてきた」「絶滅しそうなクジラを捕るとはいっていない」という日本ですが、100頭いるかいないかのコククジラについて、国内ではなんら保護のための施策がとられていないばかりか、数年前には、銛が打ち込まれた頭部が北海道沖に漂着するという事件も起きています。
<先住民生存捕鯨>
昨年の下関で大きな騒動となった先住民生存捕鯨(ASW)ですが、論点は、ASWの捕獲枠算出方法が商業捕鯨の捕獲枠よりもゆるやかなことです。日本は、伝統文化である沿岸捕鯨を差別化するのはおかしい、と執拗に食い下がり、アメリカとロシアのホッキョククジラの捕獲枠設定を科学委員会議長の「資源に問題はない」と言う発言にかかわらず否決に持ち込みました。10月のケンブリッジの臨時会議で日米バトルはとりあえず先住民の権利を認めることで解決。しかし、ASWについての問題は残されています。
「日本の業者が買ってくれるといったから」と何十年も捕鯨をやめていたのにかかわらず再開したリ、再開を望むところもあります。こうした地域における商業的な流通も問題となります。ASWは伝統的に捕鯨が生活の基盤となり、かつ商業目的でなく、肉は地元消費であることが前提のはずですが、言葉の内容の合意は時としてかなりむずかしくなります。今回、ロシアはコククジラの消費について「先住民として生存のため、また伝統的にクジラ肉が必要と認識されている人たち」を削除し、「必要だと認められている」と変えたいと提案し、反対する国との調整がつかず、結論は来年にもちこされました。
また、デンマーク領グリーンランドでは、ミンククジラとナガスクジラが捕獲されていますが、科学委員会はこの捕獲について、同海域での個体数調査が不完全であると懸念を示し、早急な調査を勧告しています。
セントビンセント&グレナディンでは最近になってザトウクジラの捕獲を始めましたが、捕獲が繁殖海域で行われ、母子クジラの捕獲があったことなどを批判されています。今回は国の正式な規制に関しての報告がIWCへ出されていないばかりか、ワークショップへの参加もありませんでした。
昨年下関会議の際に、イギリスの団体EIAから長崎県で販売されていた「グリーンランド産クジラ」と「ロシア産クジラ」(どちらもASW実施地域)が提出されました。協議の結果、日本とアメリカがそれぞれ遺伝子をチェックし、違法な取引によるものか、それともラベル違反かが調査されることになりました。その後、日本鯨類研究所によって、グリーンランド産は南極のミンククジラであり、ロシア産はイシイルカであったという報告がありました。販売していたジャスコはEIAに謝罪(???)し、今後は調査捕鯨肉と確認されたもののみを販売することにしました。一方、アメリカが調査するはずであった肉のサンプルは、輸出許可がでなかったため、アメリカ大使館に冷凍されたままであることが今回会議で指摘されました。しかし日本は、既に結果を公開しているし、あえて追試の必要性がないので輸出許可を出さなかったと発言し、付け加えて、かつて野生生物の国際取引を監視するトラフィックネットワークが日本のクジラ肉が香港に輸出されたと報告したが、結局それが魚の肉であったことが判明したに関わらず、公式に表明をしなかったことに非難に問題をすり替えてしまいました。
- 現在、クジラを資源として本当に必要とするところがあるとすれば、昔からの生活週間を守って暮らしている一部の先住民がそれにあたるでしょう。ですが、クジラははんぱでないお金になるものですから、地元の消費と商業的な流通との境が難しくなることも確かです(日本の場合は、後の沿岸捕鯨の所で明らかになるように、地元消費よりも商業流通の比率が大きいものですが)。ASWの議論の難しさもここにあります。
<クジラの捕殺方法/動物の福祉>
イギリスなどが中心に進めるクジラの捕殺方法についての議論は、殺したくない人がいる以上、捕鯨する国としては最低の責任だと思われますが、これまでも、動物の福祉についての理解のない日本には受け入れ難いものだったようです。今回も宣言通り日本は参加を拒否しました。
しかし、これは日本が常々主張するように、「捕鯨再開を遅らせるための戦略」とばかりはいえません。EU等いくつかの地域では動物の福祉が真剣に論じられ、法律や規則が作られています。飼育される運命にあるものも、殺されるものも、その生態の理解からできるだけ負荷を減らし、苦痛を軽減しようという狙いです。苦痛を与えないですむ殺しかたの開発から、家畜の輸送方法、ニワトリが1つのケージに何羽いれてもいいか、など命あるもの、痛みを感じるものへの配慮は無視できない課題になりつつあります。BSE問題や抗生物質の耐性菌問題が大きくなったことを通じて、日本でもやっと論議が始まりましたが、認識としてはまだまだのようです。
IWCにおいては、クジラを殺す時間の短縮を狙って、捕鯨砲やライフルの口径や弾の種類など、実例に基づいて議論されます。これまで、調査捕鯨での結果についていくつかの報告が日本から出されました。しかし、データの全てが揃っていないことやノルウェーとの致死時間の違いなどで日本は批判を浴びています。沿岸捕鯨をしているノルウェーは、自らの捕鯨データを詳細に提出してこの議論に貢献しています。
<サンクチュアリ>
続いて、サンクチュアリの議論がありました。サンクチュアリは、クジラの繁殖や回遊などに重要な海域を保護して、減少した個体数の回復を図ろうと言うものです。サンクチュアリについても日本政府はIWCの討議内容ではないとしていますが、ここでは新たなサンクチュアリの採択についての投票があるので、日本政府は出席しました。サンクチュアリのように重要な用件に関わることは、4分の3の支持が必要とされます。82年に捕鯨のモラトリアムが決定したのに、それに反対した日本が調査捕鯨を始めてしまったため、92年にクジラ資源保護のための海域として南極海サンクチュアリがフランスから提案され、翌93年に可決しました。日本政府は今回、「モラトリアムがあるのに、保護海域を作る必要性はない。また、保護すべき科学的根拠に乏しい」として南極海のサンクチュアリについて反対提案を出しましたが否決されました。
昨年に引き続き、南太平洋サンクチュアリ提案がオーストラリア、ニュージーランドから、南大西洋サンクチュアリ提案がブラジル、アルゼンチンから提案され、それぞれの提案国の科学者から減少したクジラ種の回復と生態系調査を継続することの必要性を訴える主旨の説明がありました。これらの海域は、その国々の経済水域を含む周辺海域の保護で、特に南半球の国々は南極海のサンクチュアリと合わせた保護を望んでいます。しかし、捕鯨を推進したい国々の反対で、今回もこの提案は否決されてしまいました。
- 日本政府の言い分は「サンクチュアリは科学委員会の強い勧告があってはじめて成立する」というものです。しかし、科学委員会での論議は、いつも捕鯨推進と捕鯨反対側で意見がかみあわないので報告は両論併記になり、「強い勧告」はでません。
- ちなみに、日本政府は科学委員会に最も多くの人員(今回は30人でこの中には小松正之氏など科学者ではない政府代表も含まれる。2番目に多いアメリカは23人)を送り込んでいます。日本では、科学委員会が「認めていない」ので科学的でないという言い方をしますが、実際は意見の科学的な判断の対立というべきです。
- 政府とは中立な立場の科学者を招待しよう、また、すでに招待されている科学者に現在は交通費や滞在費だけしか支払われない現状を改善しようと言う提案が別の場面でありましたが、日本政府はこうした提案には熱心ではありません。
<クジラの違反捕獲>
次は違反行為についての討議でした。デンマーク領グリーンランドにおいてザトウクジラが違法にライフルで撃たれ、助からないことが確実だったために捕鯨船でしとめられ、肉などの製品が先住民に供給された事件が2件、韓国で違法にミンククジラが捕獲去れ、捕まった船長に罰金が課せられ、操業権を失ったことなどが報告されました。日本は2001年から定置網で混獲されたクジラの商業流通を認めていますが、このことで違法な捕獲が増えている可能性の指摘(半年で混獲が倍増したことが報告されている)と、商業流通を行うことへの批判が出されました。しかし、日本は「定置網に勝手にクジラが入ってきて魚を全部たべちゃうんですよねえ(小松正之氏)」漁業者は大きな損害を蒙るのだから売ってお金にするのは当然と主張。さらに、ニュージーランド空港でマオリの人が細工したクジラの骨を売っていたことを指摘。「商業流通は大いに結構」としました。マオリの人々は、座礁して死んだクジラの骨を加工する権利をえて、その細工物を売って収入にしています。日本はそのことが日本の捕鯨業者がやっていることと同じだとしたのです。
宮城県知事の浅野史郎氏の要望で、いくつかのNGOとの意見交換が実現できました。彼は、地元鮎川の沿岸捕鯨再開を訴えるため、先月行われた捕鯨関連の自治体の首長によるクジラサミットの宣言をたずさえてきたのですが、初日のあいさつで「クジラサミットの開催された直後に大きな地震がありました。私は、きっと、怒ったクジラたちが押し寄せてきたのだと思いましたが、そうではなくて、地震であったのでほっとしました」と話しはじめました。「沿岸捕鯨の権利が認められなくて残念」と主張する一方で「捕鯨について、私はよく知らない」と言う勇気も持っている人でもあります。沿岸のイルカ・クジラが必ずしもいい状態でない、今後きちんとした調査や保護が必要という私たちの言葉に耳をかたむけていました。
トンガから参加したホェールウォッチャ−とマオリのウォッチャ−を紹介し、あとで彼らに感想をきいたところ「すごくオープン・マインドの人だったよ」と喜んでいました。ついでに鮎川に、元手が少なくてもすむホェールウォッチング産業を推進してくれるといいのですが。松島も近いし、金華山も目と鼻の先ですから、素敵な滞在型リゾートになるかもしれません。どうでしょうか?
<改訂管理方式と改訂管理制度>
Revised Management Procedure/RMPとReviced Management Scheme/RMS
・背景
モラトリアムが成立する以前、IWCはクジラ資源を適切に管理するための方式をつぎつぎと採用し、失敗してきました。資源管理の考え方は、もともとは魚種に用いられた「最大持続生産量」をもとにして、いわば「銀行の元金を危うくしないで利子を利用しよう」という考え方です。同じ条件のところで個体数が減ると、自然死亡率は低下し、出産間隔が短くなり、性成熟年令は下がるとされています。そこで、この傾向を利用して、どの程度捕獲すれば利用するために都合がいいかということを計算するのがこの方式です。以前はクジラの種ごとの生態等が不明なまま、算出方法が乱暴であった上に捕獲可能頭数も採算を抜きにはありえませんでした。
しかし、クジラの減少は著しく、採算がとれなくなった国々が捕鯨から撤退していく過程で、IWCの参加国に保護の色合いが強くなると、厳しい管理のあり方が始めて問われることになったのです。
大雑把に言えば、RMPはクジラをどうすれば持続的に利用できるかの基本的な考え方で、過去における不十分な管理制度をすべて洗い出して再構築するもので、RMSはRMPに基づいてどのように実際に運用していくべきかという方法についての議論ということができます。RMPについてはすでにおおむねの合意ができていますが、RMSについては、データの不足や捕獲時や市場流通における監視システムなどまだ作業中です。
日本政府は、管理制度が一向に決まらないことに苛立っていますが、南極海のミンククジラの推定個体数は2000年に「もっと少ない可能性がある」と見直しが勧告され、新たなデータはまだ出ていません。基礎となる群れの把握の仕方でさえ、動物生態学と水産資源学では異なっていて、調整がとれていないのです。群れサイズが小さくなれば、それだけ捕獲可能な頭数が少なくなります。
また、監視制度や市場チェックについても対立があります。捕鯨する船が小さな場合、監視員を乗せることができない、と捕鯨国側はいいます。監視にかかる費用についても議論があります。また、日本は、市場チェックは国内の問題で国際取引はワシントン条約の守備範囲なので、いずれにしてもIWCの管轄ではない、としています。
・議論
科学委員会議長はまず、RMPの捕獲規制の計測について、科学者間の不一致があると、さらなる情報と詳細な分析の必要性を強調しました。科学委員会は北太平洋のミンククジラの捕獲枠についての試算を継続しており、同海域での個体群が2つなのか3つ(北西太平洋で主に調査捕獲しているOストック、まれにあらわれるWストックと主に日本海側に生息するJストック)なのか、それとも重なりあう群れがあるのか検討しているということです。そして、大多数の科学者は全ての可能性について検討するのがベストであるとしていますが、捕鯨再開を願う日本はこれに反対の立場です。現在は、明らかでない群れの究明の可能性の幅を狭めるために、日本からもっと北西太平洋調査捕鯨や定置網捕獲の情報が必要ということが指摘されました。
- 混獲されたクジラのDNAについても、系統を明らかにするためのデータに加えるため、情報提供することが求められていますが、日本やノルウェーは国内問題であるとして提供していません。
日本政府は、まず、96年にアイルランドが提案した「公海での捕鯨禁止、RMPに基づいて沿岸でのみ捕鯨」について、「集中的な捕殺と沿岸の系群への脅威となる可能性がある。沖合や南半球での捕獲ができない。小規模の捕鯨船では監視員などの人数が増えて経費がかかる」と反論しました。
- RMPが「沿岸の系群への脅威になる」ような不完全なものであることを示唆しているのでしょうか? あるいは、想定される捕鯨の規模に沿った捕獲が(規制を超えて)あり得ると知ってこのような答えになるのでしょうか?
日本政府はまた、先住民捕鯨との捕獲枠の差について、商業捕鯨への過大な要求であるとし、北太平洋のミンククジラについては、11年の議論の結果、捕獲枠が算出されるようになった。アメリカの科学者が架空の系群について言及しているが生態的に問題であるとし、回復していないとされるJストックも6000~1万頭と定置網で混獲されているにかかわらず、大幅に増加しているので生物学的に捕獲可能であるとしました。
- 調査が日本沿岸とさらに南下した海域で春と秋の2度にわたり、回遊中のミンクをダブルカウントした可能性があるという科学委員会での議論あり。
また、RMSの作業の遅れへの不満について発言、1982年に「暫定的にモラトリアムが決定され、科学的な包括的評価と新管理方式の完成するまで採用され、RMPが完成したのに、一向にRMSは一致しない。「余計なことを付け加える国があるので、永久に終わらないのではないか」と申し立てました。さらに「もし委員会がやらないなら、自分たちでやるまで」と、RMPの実効性を試すためとしてニタリクジラ150頭を北太平洋で5年間捕獲するという独自のプランを提案しました。日本沿岸の三カ所(釧路・釜石・鮎川を予定)で捕鯨基地を使い、ニタリクジラの捕獲を大型キャッチャーボートで爆発銛を使って行う。船にはそれぞれ国内監視員と国際的オブザーバーを2人乗せ、コントロールとモニタリングを行い、その生物学資料はIWC に提供する、というものです。
しかし、投票の結果、これは17—27—1で否決されました(捕鯨の側に投票してきた韓国が「RMS完成を待つべき」とこれに反対し、中国は保留)。
<小型沿岸捕鯨>
日本は、小型沿岸捕鯨のモラトリアムで4つの地域が影響を受けているので救済措置が必要であると訴えました。「これまで15年間というもの、日本は沿岸捕鯨の再開を訴えてきたが、これが最後」とも付け加えました。そして、「これまでは特別枠の許可を求めてきましたが、今回は正攻法でいきます」とミンククジラ150頭の捕獲を5年間、捕獲枠の設定の詳細や捕獲海域の設定、監視制度(船が小さいので監視員は乗せられません。そのかわり、24時間のビデオ中継で基地から監視できるようにします)など、RMSを独自に作成して提案しました。日本沿岸のミンク猟は、調査捕鯨で50頭(北西太平洋100)、定置網混獲(2002年/119)にこの150頭が加わることになり、総数400頭を超える捕獲数が日本の試算による捕獲枠におさまるということです。
しかし、反対する国は、北太平洋の資源の評価がいまだ不確かであること、Jストックの混獲が懸念されることなどをあげ、まだ始めるべきではないと反論しました。また「救済措置」に反論してモナコは「それらの自治体は調査捕鯨でどれだけのクジラを捕獲しているのか?」と質問し、イギリスはそれに加えてそれらの地域がツチクジラ捕獲を行っている事実を指摘しました。アンティグア・バービューダが日本の肩を持ち、「先住民生存捕鯨と沿岸捕鯨を区別するのは間違いだ。皆さん、私たちが自分の食べ物を食べているというのに、食べることのできないこれら地域の人々に同情してほしい」と主張しました。
日本は「150頭のミンククジラは持続可能な数であり、減らすつもりはない」とし、「これは商業捕鯨です。これら地域の人たちにはお金が必要です。それで、子どもたちを学校にやることができるのです」とこれまで主張してきた特別のカテゴリーではなく、商業捕鯨であることを認めました。
日本の提案は19—26—1(保留はオマーン)で否決されました。
- 少なくとも、管理の方法を具体的に提案したのはこれまでよりは前進と評価できるかもしれません。しかし、沿岸での捕鯨については、すでに、さまざまな違反行為が明らかになっていて、「枠さえあれば後はどうにでもなる」という経験者の意見もあります。実際に、私たちが今年沿岸調査捕鯨の開始が4月10日であると言うことを知ったもの、さる筋から、4月1日にすでに「沿岸調査捕鯨」が行われ、捕獲した肉が販売されていたと聞かされたからでした。
<Scientific permits/調査捕鯨>
科学委員会議長は,作業部会での検討で致死的な調査による管理のためのデータが非致死的な調査より優れているかどうかで意見の対立を見たことを報告しました。議長はまた、北太平洋でのミンククジラ捕獲は資源に影響しないが、イワシクジラとニタリクジラの捕獲が資源に影響しないと言うことについては同意できないと報告しました。
会議は夜まで続き、夕食後、日本の北西太平洋調査捕鯨(JARPN)のパワーポイントによるプレゼンテーションで開始されました。調査捕鯨に反対する国々は、肉が商業的に流通していることを問題にし、非致死的調査にきりかえるべきだ、と主張しますが、日本は調査捕鯨の産品の利用は国際捕鯨条約で規定されている、と反論します。また、日本が調査データのすべてを公開していないことも不信のもとになっています。
北西太平洋調査捕鯨(JARPN)の主眼のクジラの捕食関係を調べることもえてして不評です。今回は、いくつもの国から、最新の『ネイチャー』が魚の乱獲について取り上げたことを話題にし、魚の減少は人間に大きな責任があるという批判がおこりました。ついに議長は「ネイチャーを話題にしないように」と注意しました。「胃の内容物は、殺さなくても糞調査でわかる」という発言もありました。
- ここで、少し長くなりますが、昨年5月、世界の著名な科学者たち21人がニューヨーク・タイムズに掲載した「『調査捕鯨』に関する科学者からの声明書」をご覧にいれましょう。この声明書には、三人のノーベル科学賞受賞者の他、日本でもよく知られているカール・セーガン、ディビッド・スズキ、シーア・コルボーン、エドワード・O・ウィルソン氏らの名前が見られます。
世界的な商業捕鯨一時停止に応ずる責任があるにかかわらず、日本は国際法の下で「調査捕鯨」と言う名目で何千頭ものクジラを過去10年の間に捕殺してきました。私達、下記に署名した科学者は日本の調査捕鯨は信頼するに足る科学として最低限の基準を満たしていないと考えます。とりわけ、次のような点においてです。
私達は日本の調査捕鯨計画はクジラの管理に関する科学的疑問に答えるように作られてはいないと危惧しております。日本は集積された情報を独立した審査のために公開すること拒否、その調査計画は検証可能な仮説や一般に認められている科学的基準に沿ったその他の実行指針が欠けています。 日本の‘調査捕鯨’によって集められたデータのほとんどはクジラを殺さない方法で得ることができます。たとえば、種、性別、系統群の大きさ、回遊パターン、系統群の確実性やその他の主要な生物学的情報は、クジラを傷つけることなく得ることができます。しかし、日本の調査計画は、止むに止まれぬ科学的必然性がないにも関わらず、毎年何百頭ものクジラを殺しています。 日本の調査捕鯨が持つ商業的な性質は、科学的独立性と相入れません。日本は捕殺したクジラの肉を商業市場で販売し、‘調査捕鯨’用捕獲割り当てを各捕鯨基地にそれぞれ分配しています。これらの商業的要因は、科学的必要性がなくともクジラを殺す利用誘因を作り出し、調査計画の動機について困惑するような疑問が喚起されています。 日本はクジラの食餌を究明するという表向きの理由で国際的にも絶滅危惧種と見なされているイワシクジラの捕獲を近々始めると発表しました。しかし、過去30年の間に日本は既に20,000頭近くのイワシクジラを殺し、胃の内容物を分析しています。更にイワシクジラを殺すことは既に知られているイワシクジラの食餌に新たな情報を与えるという合理的な見込みはありません。
この計画に資金を出し続け、実行し続けることで日本は科学的調査という大義名分を使って国際社会への責務から逃れているという深刻な批判に自らを曝しています。私達は科学者として、これは公正な意志決定を危うくし、政策を助ける科学の役割に対する世間の信用を損なうものだと考えます。従って、私達は謹んで日本政府にその調査捕鯨計画を中断するよう要請いたします。
(本文ママ)
アイスランドも調査捕鯨の再開を考えています。アイスランドは、ミンククジラ100、イワシクジラ50、ナガスクジラ100頭を捕獲し、日本などに輸出するかまえです。アイスランドがIWCを脱退する前、調査捕鯨名目で捕獲したナガスクジラ肉を日本に向けてさかんに輸出してきました。ナガスクジラの肉は少なくとも掃除は一番おいしい肉として知られていたのです。
この後、南極の調査捕鯨についての中止決議と特別枠での(調査目的)捕鯨禁止勧告が提案され、それぞれ24—20—1と24—21—1で決定しました。
- 相変わらず、なんの拘束力もない決定ですが。
- 7月1日、朝日新聞は、水産庁が「魚資源は減少しておらず、まだまだ捕獲可能」としたレポートを紹介しました。マグロやクジラ、サメなど、50種についての報告で、過去5年間の捕獲実績について紹介されています。それによると、ミナミマグロは、西大西洋については大きな減少が認められるが、太平洋には十分な資源があり、カツオも増えているとし、小松正之氏のコメントで「日本の漁業者の乱獲によってマグロ資源が激減したというのは間違いだ」とのせました。確か小松さんは「クジラがマグロの餌であるイワシを食べてしまうので、マグロが減っている」と発言されたような⋯クジラ食害説はいずこへ?
この後、科学委員会議長の報告は海洋汚染や気候変動とクジラになり、日本政府代表団48人とカリブの国々はぞろぞろと会場から退出しました。
海洋汚染問題は、クジラの生態に関わると同時に、日本のようにイルカ・クジラ肉を食べる地域があり、さらにそうした地域が魚を多食している可能性があることで問題があります。2000年以来、イギリスなどからクジラ肉汚染について、警告すべきだと言う意見が再三出されています。しかし、日本は「汚染だけでなく、クジラが健康面に果たす役割も考えてほしい」と国内問題にはタッチして欲しくないと言う態度です。このほど、国内の科学者や消費者団体などの強い要請があって、厚生労働省はやっと重い腰をあげ、「妊婦はバンドウイルカ、コビレゴンドウを2ヵ月に1度以上は摂取しない」と言ういささか手ぬるい警告を発しました。会議ではイルカや調査捕鯨の肉が日本国内でペットフードに使用されていたということも指摘されました。しかし、当事者の日本は既に退出した後でした。
こうした議事をこなしての会議終了は午後11時でした。
<最終日>
最後の日は大きな問題が過ぎたので、議長もみんなをせかして次々と議事が進行しました。いくつかの沿岸の小型鯨類の減少について、科学委員会から懸念が示されました。特にヨウスコウカワイルカ、コガシラネズミイルカが生き延びられるかどうか、大きな懸念が示されました。また、バルト海のイルカについての特別保護計画の必要性やグリーンランドとロシアにおけるベルーガ捕獲について、漁網によるネズミイルカの混獲についても懸念が示されました。
英国から日本のイシイルカの捕獲が年間16、000から1、8000頭に上ることの発言がりましたが、「沿岸小型鯨類はIWCの管轄外である」とする日本政府はデータの公開をまたしても拒否しました。その他に、グリーンランドでのイッカクの捕獲についても問題となり、来年の検討が約束されました。
クジラの遺伝子情報の共有について、ニュージーランドのオ−クランド大学における遺伝子情報のネット公開が紹介され、日本とノルウェーも公開するよう促しました。ノルウェーは遺伝子情報を科学委員会に提供しているが、ネット公開には問題があってできないとしました。遺伝子情報についてはワシントン条約での取り決めで、ミンククジラがダウンリスティングされるという条件で行うと言うことでした。
他にもIWCの予算について、非加盟国の捕鯨問題(特にカナダのホッキョククジラ捕獲問題)中立的な科学者の招待について、専門家に内容の法的なアドバイスを求めることについて、小国の参加費の減額について、英語主体から他国語可能なための同時通訳問題などが論議され、来年の開催国イタリア、ソレントのあいさつと再来年の開催国である韓国のビデオプレゼンテーションがあり(私たちは、NGOを含む全ての人たちを歓迎します−大きな拍手)、議長の交代(次はデンマ−ク)が告げられて、議事は午後2時過ぎに終了しました。
ベルリンの町は、静かでいささか古び、懐かしさを感じさせるたたずまいでした。久しく東西を隔てていた壁は、思ったよりも薄く、現在は一部が「壁美術館」として保存されています。残りは? 本物かどうか確かではありませんが、かけらがあちこちで観光土産になっていました。これぞ究極の廃棄物の利用法ではないでしょうか?