急増するクジラ肉の在庫と “遊水池”みたいな隠れ在庫の出現
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- 作成日 2011年1月05日(水曜)12:07
- 10月末の流通在庫量、とうとう記録達成
グラフを見てください。ここには2010年10月末の在庫量まで反映させてあります。5525トン。10月末在庫量としては、1990年以降でもっとも高い値です。それだけではありません。2010年は発表された在庫量の数値だけではわからない、いろいろなことが起きていて、この数字以上に売れていない状況が進んでいる可能性が高くなっています。その背景を説明しましょう。
まず、生産量との兼ね合いを見てみます。
2006年の調査鯨肉生産量は史上最高の5333.8トン(沿岸捕獲分を含めれば5486.5)でした。前年よりも1542tも増やしたのですから、増 えて当然の年でもあり、それがどれほど減っていくのか、つまりどれほど日本の需要があるのかに注目した年でありました。2010年はどうでしょう。 2004年以降最も生産量の少ない年で、3620.4トン(沿岸捕獲分を入れても3802.7トン)でした。前年より826トンも少ない。それにも関わら ず在庫は統計の上では過去20年間で最も多いのです。
この統計の特性上、統計の対象となっていない小さな冷凍倉庫に眠っていたクジラ肉を大きな冷凍倉庫に集約するような動きがあった場合には、見かけ上在庫 量が増えるということも起きうるのでそこは単純に「増えた」とは言えません。
隠し在庫? その1 統計対象の冷凍倉庫が減った
ただ、今年は単純に在庫量の数字を見ているだけでは状況を把握しきれません。じつは、この統計数値の元になっている、対象倉庫の数が、2010年1月か らガックリと減ってしまったのです。どういう事かというと、このグラフの元になっている「水産物流通統計 -主要品目別月間入・出庫量及び月末在庫量-」 を調べるために入庫出庫在庫の量を報告してくれるよう依頼してある倉庫の数が、651から500に減ったのです。3/4に減ったというわけです。これ では増減の連続性をウォッチすることができません。そこで、たった一回、倉庫数が減る前と減った後の両方の数値を発表した2009年12月のデータを頼り に、私なりに数値を補正してみました。
それが破線です。対象倉庫数は23%も減りましたが、鯨肉の在庫量は3.9%程度の減少でした。これは全体の平均が約20%減であるのに比べると、ずい ぶん差が少ないですよね。想像するに、削られた約150の倉庫にはあまり鯨肉が入っていなかったということになります。大づかみに増減を見る上ではあまり 影響がないことはわかりました。ただ、昨年同様に651倉庫を対象に統計を取り続けていたならば、2010年8月の在庫量は6000トンを越える数字に なっていたはずです。言い方を変えれば、統計の対象から除外された約150倉庫に眠っているクジラ肉は「隠れ在庫」と呼んでもいいかもしれません。
隠し在庫? その2 輸出を始めたアイスランドの捕鯨業者
さて、今年はもう一つの「隠れ在庫」があります。それはアイスランド産のクジラ肉です。おそらくナガスクジラでしょう。
アイスランドの貿易統計では、10月現在、日本に対して約760トンの冷凍鯨肉を輸出したことになっています。しかし日本の貿易統計では、10月現在ア イスランドから輸入したクジラ肉は160トンに留まります。この差600トンは、以下のどれかの状態におかれていて、流通統計には表れていないことになり ます。
- 統計上は輸出したことになっているが、まだアイスランドの保税倉庫に眠っている
- 輸送船に乗っていてまだ日本に着いていないか、第三国にいったん降ろされている
- 日本の保税倉庫に入れられて通関を待っている
これが「第2の隠れ在庫」です。
保税倉庫に預けている間にも蔵賃はかかるのですから、とっとと通関して売りたいのではないかと思うのですが、誰の思惑かはともかく、輸入作業は進んでい ません。
アイスランド産クジラ肉が日本に入ってきていることは、共同通信だけが報じています。そしてそれらはすでに市場に出回っています。試しに「アイスランド 産 AND ナガスクジラ」でネット検索してください。ネット販売のページがいくつもヒットします。
潜在需要掘り起こしに失敗
穿った見方をするならば、統計の対象となる冷凍倉庫を減らしたり、通関を遅らせたり、あの手この手でクジラ肉の在庫量を少なく見せようとがんばっている、 ようにも見えます。
そうでなくとも、統計が連続性を見るための手がかりにならないような状況を作ってしまう行政に対しては不信感が募ってきます。経費削減と称してこんなと ころを減らされては、一種の情報遮断にも思えます。
※2010年1月7日追記
まず、農林水産省のWebSiteから、2009年12月の冷蔵水産物流通調査結果をダウンロードしてください。
pdf版とExcelデータとありますが、どちらでも結構です。
農林水産省
ホーム > 統計情報 > 分野別分類/水産業 > 水産物流通調査 > 冷蔵水産物流通調査
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/suisan_ryutu/reizou_ryutu/pdf/reizou_0912.pdf
reizou_0912.pdf
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000007368730
上記のデータには「品目別月間入・出庫量及び月末在庫量(平成21年12月分)」が記されていて、くじらは4246tとあります。
次に、2010年1月の冷蔵水産物流通調査結果をダウンロードしてください。
そのデータは、上記のページの注釈を見ると、「平成22年1月分以降の冷蔵水産物流通調査(全国主要冷蔵庫)の月別結果の調査及び公表は、水産庁で情報収 集し公表することとなりましたので、水産庁ホームページ中の水産統計情報をご利用下さい。 」とあり、さらに「なお、平成22年1月分からの収集データは、平成21年12月分までのデータとは調査対象範囲に変更があるため、利用に当たっては御留 意願います。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/index.html
と記されています。
では、上記水産庁のページに飛んでみると、こんどは冷蔵水産物流通量は外部リンクに飛ぶように案内されています。水産庁に移管された上、外注されたんですね。
外部リンクである、
水産物流通調査 社団法人 漁業情報サービスセンター
というページに移動します。
http://www.market.jafic.or.jp/suisan/
ここに、2011年1月6日現在では2010年3月以降のデータが公開されています。
ただし、2010年1月と2月のデータは、右端の列の「年度別調査票一覧」から「2010年 調査表」に飛ばないと出てきません。
http://www.market.jafic.or.jp/suisan/fKoukaiSub.aspx?nen=2010
ここで、「冷蔵水産物調査 主要品目別月間入・出庫量及び月末在庫量表」の1月度を選んで下さい。
EXCelデータでも
http://www.market.jafic.or.jp/suisan/file/reizo/2010/09_syuyou_2010_01.xls
pdfデータでも結構です。
http://www.market.jafic.or.jp/suisan/file/reizo/2010/09_syuyou_2010_01.pdf
このデータ、
09_syuyou_2010_01.xls
09_syuyou_2010_01.pdf
のどちらでもいいですから開き、「くじら」の項を見てください。前月月末在庫量、すなわち2009年12月の月末在庫を見ると4080tとあります。
4246tと発表されたものが、4080tに変わっています。
前者は651倉庫を対象に算出した数値で、後者は500倉庫を対象に算出した数値です。
両者の差166tが、2009年12月の時点で、その後調査対象からはずされた151倉庫に入っていた分ということになります。
そのため、以後、2010年の値は2009年並みのに考えれば96.09%が発表されているとみなし、逆に言うと2010年の発表値を1.04倍すれば、 2009年までの数値との連続性を見るには適していることになります。
上記記事はpdfファイルでダウンロードして頂けます→ (pdfファイル350KB)