ノルウェーからのクジラ肉輸入計画中止要請書
農林水産大臣 谷津義男 殿
水産庁長官 渡辺好明 殿
「ノルウエーからのクジラ肉輸入に抗議する」
本日付け朝日新聞記事「鯨肉DNA登録へ」を読み、大変驚いています。1月にノルウェーがクジラ肉の 輸出解禁を発表してから、日本政府各省がクジラ肉輸入に対して慎重であったことを評価していたからです。しかし、今回の方針は日本の捕鯨問題に商業取引を利用しようというもので、現在IWCで検討されている新管理方式の議論をも空洞化させ、「持続的な利用」を主張する水産庁の立場からも矛盾したものといわざるをえません。
また、最近明らかになったクジラ肉の汚染も重大な問題です。ノルウェーが主に輸出しようとしているのはクジラの脂身ですが、同国ではすでに同海域のミン ククジラの脂身にPCBなどの有害物質が高濃度に蓄積されているというレポートがあり、国内では「ガンの恐れがあるので多食してはならない」と食品安全の担当部局から警告が出されているほどです。こうした脂身をいくら儲かるからといって輸入し、販売する無責任さはあきれるばかりです。このような金儲けを後押しして、本来は国民のためのはずの行政当局が有害食品の輸入を押し進めることは国民にたいする裏切り行為に他ありません。
DNA調査についても問題があります。クジラ肉を輸入する業者の登録義務と違反した場合の罰則など、国内法の整備なしには登録制度の徹底はむずかしく、国際的な監視が極めて強い当初期間はともかく、管理が不可能なことは象牙問題ですでに立証済みです。
国内の漁業者への配慮も問題です。現在、ノルウェーを先頭に、日本にクジラ肉を輸出しようとしている国々がいくつもあります。そのなかには、シロナガス も留保しているアイスランド、北米西岸のコククジラを取引したい先住民も含まれ、こうした捕鯨関係者が日本への輸出をきっかけに、捕獲頭数を拡大する意向を持っています。クジラ肉の国外からの流入によって考えられることは、マグロ問題の二の舞です。マグロでは、国内のマグロ漁船の管理を行い、捕獲規制を漁業者にいくら守らせても、国外からの輸入や便宜置籍船などからの流入がそれを上回り、資源保護はいうにおよばず、漁業者へのしわよせにも十分な対応ができない状況となっています。水産業を守る立場の水産庁が、実際は漁業者を見殺しにし、その解決策を持っていないことは明らかであり、クジラ肉の商業取引再開 は水産庁の自己矛盾の産物を増やすことになるのです。
最後に、ぜひみなさんにご再考いただきたいことは、自然資源の利用についての無責任さです。かつてと違い、現在の日本は「金持ちの国」「資源を浪費して憚らない国」という認識を世界中に与えています。その結果として、環境保護に対して厳しい国からは当然の批判をあび、そうではない国から「カモ」として利用されているのです。こうした態度は、私たちの将来の世代を考える時に、余りにもお粗末で恥ずかしいことです。どうか、目前の利益に惑わされずに、日本の置かれている立場と責任を認識して、安易な輸入決定を断念してくださいますよう、心からお願い申し上げます。