太地で捕獲のシャチ5頭のうち2頭が相次いて死亡
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- 作成日 1997年6月18日(水曜)12:15
【2頭の シャチ の死】
'97年6月17日深夜に和歌山県のJAVA支援者から緊急連絡が入った。 アドベンチャーワールド の妊娠していたシャチが、この日の朝に死亡したという。また、その3日前の6月14日に、それまで元気にしていると水産庁を通して伝えられていたオスの子どものシャチも死亡したと伝えられた。メスのシャチは、多くの人々が心配したとおり、自分からは餌を食べず、4月に流産をして急速に体力を失い、泳ぐことも、自力で浮いていることもできなくなっていたのをタンカで水中に保持し、口を強制的に開けて流動食を流し込んでいたようだ。
17日の朝には、いったん停止した心臓を薬物注射によって生き返らせようとしたが、結局、そのまま死亡したとのことで、死体は解剖後、すぐに水族館内に埋められたという。この情報は、死んだメスにたいする無理やりの飼育・延命という水族館のやり方に耐えられなくなった同水族館の職員による情報で表に出ることになった。イルカ&クジラ・アクション・ネットワークは、このニュースの内容を国内外の協力団体に伝え、マスコミ各社にニュース・リリースとして発表した。
追悼
6月21日夕刻から、イルカ&クジラ・アクション・ネットワークは、死亡した2頭のシャチの死を悼み、同時に残された3頭の早期解放を訴えるキャンドル・パレードを催した。約80名が参加し、銀座から水産庁横までのコースを、黒布で覆ったキャンペーンカーを先頭にしめやかに行進した。また8月10日には、都内のライブハウスで追悼ライブを開いた。
シャチ死亡のニュースは各マスコミで報道された。 TBSテレビ は7月23日に特集を組み、捕獲以後の概要と内部告発の内容を詳しく伝えた。
シャチの死亡原因
死亡したシャチの組織切片は、和歌山県立医科大学に送られて病理検査されることになった。約2カ月後に出された中間報告では、子どものオスのシャチの死因は「サイトメガロウィルスによる全身感染」とされている。ウィルスの感染経路などについてアドベンチャーワールドは「感染経路や発症した経緯は明らかでない」としているが、このウィルスは、海生哺乳類ではまだ発見されていないもので、人のかかるヘルペス科のウィルスとして知られ、日本では、30歳までに70~90%の人が感染しているが、ほとんどは不顕性で経過し、免疫不全状態の時などにウィルスが再活性化しやすいと考えられている( 平凡社百科事典による) 。
メスのシャチの死因は「細菌性化膿性肺炎」とされ、「消化器系にたくさんの寄生虫が寄生しており、体力と免疫力が落ちたときにプールの水を誤飲、細菌が増殖して肺炎になった」と報告されている。しかし、メスのシャチの妊娠や流産などについては、解剖に立ち会った獣医によって否定されており、捕獲から死亡に至る詳しい経過はまったく報告されていない。イルカ&クジラ・アクション・ネットワークは、水産庁に「飼育環境に問題があったのではないか」と立ち入り調査を要請したが、調査の結果は「飼育環境に問題はなかった」というものであった。
現在までのところ、最終的な検査結果は明確にされていない。
死亡時のデータは下記の通り:
オス 体長 3.77 m、体重 650kg (捕獲時の体長 3.75m、体重 700kg)
メス 体長 6.40 m、体重3,300kg (捕獲時の体長 6.30m、体重 5,500kg)
【残された三頭】
●伊豆三津シーパラダイス のメス
「アスカ」と名づけられた。フランスから95年に購入されたオスのシャチ「ヤマト」とともに、海を仕切った囲いの中で飼育され、一般に公開されている。捕獲直後の97年3月にスポング博士が視察して心配した背中の窪みは、自力でエサ(冷凍サバを解凍したもの)を食べるようになってから消失した。現在は、1日平均50kgを食べている。97年末の水族館の報告によると、すでに性成熟しているとのことで、いつでも交尾可能とのこと。最近は飼育係にエサをねだり、ヤマトの真似をして芸を見せることもある。
●太地町立くじらの博物館 のメス
97年10月までは採血などの検査の必要性から、海の中に作られた10m×10mの狭い囲いの中に入れられていて、ほとんど泳ぐことがなかった。尾びれに腫瘍があったが、97年12月には完治したと報告されている。その後、やや広い囲いの中に移され、同時にオキゴンドウ2頭が入れられた。オキゴンドウと同居させたのは、同水族館の"学術研究"の一つが「多種との交流」とされていることによる。しかし、98年4月ごろから盛んにオキゴンドウを攻撃する行動が見られ、5月中旬にはオキゴンドウが他に移された。現在は、カマイルカとバンドウイルカが同居している。エサ(冷凍サバを解凍したもの)は、97年4月から自力で食べはじめており、現在は1日平均42~48kgを食べていると報告されている。
●アドベンチャーワールド のオス
2頭のシャチが死亡した直後の7月、イルカ&クジラ・アクション・ネットワークの支援者が同水族館を訪れて館内あちこちを探した結果、生き残っていた1頭のシャチを発見し、その姿をビデオにおさめることに成功した。このプールは、シャチのトレーナーらが寄宿する管理棟の裏側にあり、直径12m、水深5mほどの円形のもので、かなり古いものらしく、あちこちにサビが認められた。ビデオで見るかぎり、シャチの泳ぎはあまり力強いものではなかった。
約10分ほどの間は、プールの縁に沿って泳ぎ続けていた。2頭の死後は、厳重な水質管理などのもとで1頭だけが隔離されて飼育されてきたが、98年になって、ドイツから85年に購入されたメスのシャチ「ルカ」が同じプールを仕切った一方に入れられた。しばらく同居訓練をしたのち、仕切りが取り払われ、通常は同居。その後メイン・スタジアムに移されたとの情報。エサ(冷凍サバを解凍したもの)の量は1日平均45~50kgと報告された。感染病などの予防のために抗生物質や胃薬、ビタミン剤などの投与が報告されているが、詳細は不明である。
現在この1頭は、当初水産庁及び(財)動物園水族館協会が発表した「ショーには使わない」という約束を破り、99年4月頃からショー出演している。