太地のイルカ猟に関する声明
1月17日、和歌山県太地町で250頭のバンドウイルカが追込み猟により湾に追い込まれたことが同町において監視活動を行っていた海外団体の発信で世界中に広まりました。また、アメリカ大使キャロライン・ケネディ氏のツイートの効果によって、事件がより広範に広がり、国際的に大きな抗議の渦がわき起こっています。一方で国内では、自衛意識も手伝って排外的な立場を取る人が多く、問題の争点を文化的な対立にずらしてしまっているようです。
日本国内でイルカ、クジラの保護を求めて活動している私どもは、この問題の解決に向けて、いくつかの問題点を指摘したいと考えています。
1)合法的な産業活動としてのイルカ猟をどう変えていくか
私どもは1996年のネットワーク発足当時、静岡県伊東市における違反操業を告発し、政府に違反をただし、イルカ猟の再考を促しました。また、広範な抗議活動を行い、許可された枠以上のイルカの解放と、水族館に搬入されたオキゴンドウ6頭の解放を勝ち取りました。現在、富戸ではもとイルカ猟師の方のウォッチングが継続しており、イルカ猟は今のところは実施されていません。
私どもの経験からいっても、イルカ追込み猟は群れごとの捕獲によるストレス、群れから幼い個体を引き離すこと、また、と殺方法いずれも非人道的であることは明らかです。
一方で、日本政府は鯨類を水産資源と見なしており、イルカ類の捕獲を認めて産業の持続性の観点からの捕獲枠を設定しています。イルカ猟は、日本においては合法的な産業活動であり、私たちにはこの前提を変えていくことが求められています。認識の違いをうめていかないままに海外での抗議だけ行われることは、自国の権利侵害という批判を打ち破ることができません。日本国内で声を上げることが非常に重要です。
2)動物の福祉の観点を鯨類にも当てはめること
日本の環境省は、動物の福祉に関して「動物の愛護と管理に関する法律」で管理を行っています。しかし、この動愛法においては、海の生物のほとんどが環境省の管轄外であることから、鯨類捕獲に関しては動愛法の対象とはなっていません。この違いは、きわめて政治的、経済的な見地からもたらされたものです。環境省の福祉基準を鯨類にも当てはめることは、イルカ捕獲の非人道性への検証となると思われます。環境省への働きかけも一つの道となる可能性があります。
3)国際的な科学的勧告の遵守が必要
昨年5月に韓国で開催されたIWC科学委員会において、その報告では太地の追込み猟への懸念が多くの科学者に共有され、以下の勧告が出されていることが報告書で分かります。小型鯨類は各国の管轄ではありますが、大型鯨類とともに広く国を超えて海洋を移動することから、IWCにおいて同様の管理を行うべしという議論は古くからあり、科学委員会での議事の一つになっています。ここに示されたように、産業を維持する観点から行っても、現在実施されているイルカ猟には問題があることを認識し、IWCに対して小型鯨類の管理を含めるよう求めると同時に、政府に見直しを求めていく必要があります。
・・よって科学委員会は、これまでにあげられた懸念(IWC, 1992; 1993; 1998c)をあらためて表明するとともに、
以下を推奨する。
- これらの捕獲対象となっている個体群に関して、個体群構成および生活史を含めた最新の資源評価を行うこと。
- ストラック&ロスト(注)および混獲の確率、捕獲努力、個体群識別および生殖状態、捕獲されたクジラの年齢構成に関する、最新のデータを収集、公開すること。
- 捕獲枠は、ストラック&ロストおよび混獲の確率も考慮し、最新の資源評価に基づいた、資源回復のための余裕を持たせた持続可能なものであるべきである(仮訳IKAN)
注)ストラック&ロスト:仕留めたものの、水没などで捕獲できなかった個体のこと
私たちは以上の見地から、国内でこれまで活動を行ってきました。この視点が今回の問題解決の鍵と考え、皆さんに訴えます。今回の国際的な動きに、広く海洋を移動する種は、一つの国や地域の所有物ではないことを改めて認識するとともに、今後どのように解決していくかは、行政や漁業者も含めた多様な立場の人たちがともに考えていくことが必須であり、そうした解決が実現することを願っております。