定置網混獲で死んだ絶滅危惧ニシコククジラに関する共同声明
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- 作成日 2007年2月09日(金曜)09:40
2007年2月9日
定置網混獲で死んだ絶滅危惧ニシコククジラに関する共同声明
この1月18日、岩手県大船渡市三陸町吉浜湾の定置網にニシコククジラがかかり、死亡したということが翌日、共同通信等によって伝えられました。 このコ ククジラは、体調9.1mのメスの子どもだったということもいわれています。日本沿岸において定置網に混獲されて死亡したニシコククジラは1昨年 (2005年)の3頭に加え、これで総計4頭になりますが、すべてがメスです。
ニシコククジラは、ロシア、アメリカ合衆国の共同調査で現在生息数は約120頭、繁殖可能なメスは23頭だと推定されています。世界でもっとも絶滅を危 惧されている大型のヒゲクジラの系統群の一つです。IUCN(国際自然保護連合)の ニシコククジラ・アドバイザリー・パネルによる生息数予測では、今の ような率でメスが死ねば、早晩絶滅してしまう可能性が高いとされています。
最近では、ニシコククジラの重要な餌場であるサハリン島北東部における石油・ガス開発がクジラの生存に甚大な影響を及ぼすことが懸念され、開発会社のサ ハリン・エネジー社はクジラへの影響回避のため、IUCNにサハリン海域におけるニシコククジラ保護に関する検討部会開催を依頼、その後、サ社は海中のパ イプラインのルートの変更を決定するなどしましたが、それでもまだ保護策は十全ではないとの指摘があります。
ニシコククジラの危機的な状況に対して、国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会および年次総会では毎年のよう に周辺国に対して保護策を勧告していますし、また、一昨年バンコクで開催された国際自然保護連合大会においては、周辺国における国家緊急行動計画策定を決 議しました。 2月1日 にはIUCNもニュース・リリースを出し、漁網による混獲がニシコククジラ個体数回復を妨げる主要な障害になりかねないと深刻な懸念を表明、日本政府に対 し、情報やDNA鑑定用サンプルの提供、混獲の危険を減らす方策を即時にとることを求めています。
この事態に対して、私たちは日本政府に以下のことを要望します。
- 1月18日に死亡したコククジラの死にいたる経過、推定死因そして健康状態など、個体に関する調査とその結果の公表。
- 日本沿岸を回遊するコククジラの早急な調査と国際的な調査協力や情報及びサンプルの交換等による生態及び移動時期・経路の解明。
- 移動時期における周辺海域における定置網規制をはじめとする混獲回避のために必要とされるすべての行動及び行為の規制。
<メモ>
コククジラ:北半球に生息する1類1科のヒゲクジラ。沿岸域に生息し、浅海の底生生物をクジラヒゲで漉しとって食べる。その習性から捕鯨時 代の初期に乱獲され、北大西洋の個体群は絶滅したと考えられている。東個体群(アメリカ系統群)は、1937年に捕獲を禁じられ、その後アメリカ政府の手 厚い保護政策で目覚しい復活を遂げた。ニシコククジラ(西側個体群)は、日本、日本支配下を含む 韓国、ロシアによって乱獲され、1970年代初めには絶滅したと考えられていた。 その後、小さな個体群が生存していることが確認され、旧ソ連崩壊後にロシアと アメリカの共同調査により、現在150頭あまりが個体識別 されている(そのすべてが現在生存しているわけではない)。ニシコククジラの生活史はまだ不明の部分も多く、その唯一の採餌場はサハリン沿海だが、繁殖海 域は南中国だろうと推測されるものの、まだ特定されていない。サハリン←→南中国への移動の際に、日本(日本海側及び太平洋側)沿岸を通過する。日本にお いては漁業法で捕獲が禁止されているが、定置網にかかって発見された場合、法的には殺して 食用に販売が可能である。現在水産庁通達によって販売が自粛されている。