共同声明「調査捕鯨の廃止を求める」
調査捕鯨の廃止を求める
内閣総理大臣 野田佳彦 様
農林水産大臣 郡司 彰 様
昨年度の第3次補正予算として追加された復興予算の不適切な使われ方が指摘されています。しかし、私たちが長年問題とし続けてきた調査捕鯨そのものにメスは当てられず、今期も捕鯨船団は、間もなく南極に向けて出航するということです。私たちは、南極海への調査捕鯨中止と、その強引な継続のため実施される不適切な施策の中止を求めます。以下に5つの要望とその理由を述べます。
1. 南極海におけるクジラ捕獲調査(調査捕鯨)の廃止
南極海鯨類捕獲調査(JARPA)は、南極におけるミンククジラの捕獲の可否を判断するため、推定個体数とその自然死亡率を初期目的として始められました。しかし、IWC科学委員会によるその評価では、JARPAの調査方法がその目的を達成できないことが判明しました。また、この調査継続の方法は、鯨肉供給により成り立っているため、科学調査としての中立性への疑問が国際社会で指摘されてきました。国際捕鯨委員会(IWC)においても、これまで40以上の調査捕鯨の再考を求める決議が採択されていますが、日本はこれを無視してきました。条約で定めた公海のサンクチュアリ内で、一国独断で実施している調査捕鯨は即刻廃止すべきです。
2. 「もうかる漁業創設支援事業」による調査捕鯨への補助金投入の中止を
復興予算による調査捕鯨継続支援が国会で問題にされている最中、調査実施機関である(財)日本鯨類研究所が債務超過に陥っていることが明らかになりました。政府と捕鯨推進側はこの事態において、調査捕鯨の抜本的な見直しを行う代わりに、少なくとも3年間は支援を継続できる「もうかる漁業」による補助金投入を実施することにしました。この事業は、もとは中小漁業者の経営の改善と合理化のために政府が資金援助をする仕組みですが、そのメリットは、最大3年にわたる90%の赤字の補填です。この仕組みもまた、復興予算の不正流用と同じく私たちの税金を不正に投入しようとするもので、さらには、「商業捕鯨ではない」としてきた政府の立場そのものを自ら覆す施策です。
3.調査継続のための、政府による鯨肉販売強化、とりわけ学校給食への鯨肉導入の停止を
水産庁は、鯨肉の売れ行き不振を打開するため、調査捕鯨の肉の販路を拡大し、直接的な取引きと同時に学校給食への活用も拡大するということを決めました。
1954年に公布された学校給食法の目的は、「児童及び生徒の心身の健全な発達に資するものであり、かつ、児童及び生徒の食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たす」とされ、教育現場では子どもたちが食べなければならないものになっています。子どもたちへの余剰食品の強制的な供給とその利用による将来的な需要拡大政策は基本的な権利侵害でもあり、即刻中止すべきです。
4.日新丸改修工事の詳細公開と安全性に関する情報の公開
「もうかる漁業」による資金獲得で、調査捕鯨開始からすでに四半世紀を経て老朽化している捕鯨母船、日新丸の改修工事が始まっています。当初は、日新丸を所有する共同船舶が、工事終了まで半年いっぱいかかるため、南極への出航は見合わせたいという意向を示していました。ところが強引な捕鯨推進議員は、工事半ばの状態で、「反捕鯨団体の妨害に屈しない」という本来とは筋の違った理由で、調査捕鯨を実施しようと圧力をかけました。日新丸は過去に2度の火災を南極で起こしています。中途半端な改修で、乗員の安全性は守られるでしょうか?さらには、2度目の火災においては燃油の流出も懸念されましたが、今回の出航で、大変繊細な南極の生態系を脅かすことを世界の人々は懸念しています。私たちは、人類の貴重な財産である南極海の環境に対して大きな責任があります。
5. 財団法人日本鯨類研究所と共同船舶株式会社の財務情報の開示
復興予算の投入、あるいは「もうかる漁業」による補助金の投入は、調査捕鯨が、一民間団体の科学調査におさまらず、また、これまでのように商業捕鯨再開のための公的な'科学調査'という名目をも逸脱し、国の支援による商業捕鯨の領域に踏み込んでしまったとさえいえるでしょう。
しかも、その実施主体は一般民間企業であれば存続はあり得ないほどの債務不履行状態に陥っていることもこの間に明らかになってきました。税金を投入する前に、一般市民の目に現状をつまびらかにする責任が政府にはあります。よって詳細な財務情報のすみやかな開示を私たちは要求します。
以上
(呼びかけ団体)
イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
(賛同団体)
IFAW(国際動物福祉基金)
アジアの浅瀬と干潟を守る会
あしたへの選択
ALIVE(地球生物会議)
いきもの多様性研究所
海の生き物を守る会
エルザ自然保護の会(Elsa Nature Conservancy)
OSS(オルカラボ・サポート・ソサエティ)
化学物質問題市民研究会
ツキノワの会
日本消費者連盟
認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金
日本環境法律家連盟(JELF)
バイオダイバーシティインフォーメーションボックス
PEACE
野生生物保全論研究会
シャチ.ジェイピー(sha-chi.jp)
ラムサールネットワーク日本
(賛同個人)
野村修身 (工学博士)
星川 淳(作家・翻訳家、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト代表理事)
門司和夫(環境カウンセラー)
沼田美穂子(南極南大洋連合ASOCコンサルタント)
佐藤真弓(バードライフ)
久松美喜夫
調査捕鯨共同声明.pdf