「鳥獣保護及びに狩猟の管理に関する法律」に海生哺乳類!

環境省の「鳥獣保護及びに狩猟の管理に関する法律」に海生哺乳類!
(IKA Net News 22号から抜粋)

 4月に参議院の環境委員会でスタートした「鳥獣保護及び狩猟の管理に関する法律」の審議が昨日7月2日、16時間の審議をもって終了しました。私たちイルカ&クジラ・アクション・ネットワークが、一見関係ないかにみえる99年鳥獣法改正問題からこの問題に取り組んできた大きな理由は、これまで資源として保護法制のかやの外に置かれ続けてきたイルカ・クジラを始めとする海生哺乳類を、保護すべき野生生物として法律の中に位置付けるためでした。

 ご存知のように、環境庁(当時)ができた当初、水産庁との密約により、海生哺乳類はそのまま水産庁管轄に残されることになりました。省庁の縄張りという ものは、やくざの世界に似て、利権と意地で構成されているといっても過言ではなく、世間一般の論理が通用しない世界です。省庁間で自ら解決するというようなことは奇跡でしかありません。そこに、市民の側からの要望をできるだけ露出させ、外側から変えていく必要があるのです。

 これまでは、どちらかというと、自然保護の分野はそれぞれの団体が分離し、なかなか相互的な情報の交換や共同で活動することがむずかしい状態がありまし た。とくに、海生哺乳類については、捕鯨問題がからんでいるために敬遠され続け、自然保護というよりは経済、あるいは政治の範疇にとどめられて、沿岸にお けるイルカ・クジラの窮状はほとんど知られませんでした。
 海生哺乳類が陸の動物と同じように保護が必要とされているという事実の突破口として、沖縄のジュゴン問題はとても大きな影響がありました。実際に、2年前には、国会で当時の農林水産大臣が「種の保存法」の対象として考えると答弁しています。しかし、それ以来、ジュゴン問題が特例として他の海生哺乳類と別格に扱われるきらいがありました。けれども、特別にあつかわれている限りは問題の解決にはなりません。

 その次の1歩は昨年の「新・生物多様性国家戦略」でした。「野生生物の保護と管理」の章に海生哺乳類の保護と管理について項目が設けられたことは、とても大きな前進でした。
 そして、国家戦略で書き込まれたことを受け、今回の鳥獣保護法の目的に「生物多様性の確保」がくわわり、さらに鳥獣の定義が「全ての鳥類と哺乳類」とされたことは今後の保護の足掛かりとして評価できるものです。
 残念ながら、同法80条にこの法律からの適用除外の規定があり、環境省令で定めたものは保護法からはずれることになりますが、これは目的と矛盾したもので、私たちは削除を要望しつづけました。しかし、今回、参議院における答弁ではジュゴン、アザラシ5種、ニホンアシカが鳥獣法対象にあげられ、他のものは水産庁に残されました。  6月14日に行われた衆議院の参考人質議では、羽山伸一日本獣医畜産大学講師が海生哺乳類保護について、パワーポイントを使った非常に説得力あるレクチャーを行い、議院たちの保護の必要性についての認識を深めました。彼は、70年代から北海道のゼニガタアザラシ保護にかかわってきた経緯とともに、開発と乱獲による漁業資源枯渇が、野生動物にたいする捕獲につながってきたこと、その状態を改善しない限り、漁業者にとっても解決はないことを、生き物のいな い「静かな海」と漁業被害対策で殺されて海に沈んだトドの映像で明らかにしました。

 そして、衆議院の審議の最終日であった7月2日は、質問に立った金子哲夫議員(社民党)の質問に、小林自然保護局長が「スナメリについては航空センサス で以前調査を行った。今後は、どの海域にどのように分布しているか調査したい」と発言しました。金子議員の地元は広島県ですが、彼は、スナメリの減少に、 浜辺の砂利の採掘による生息域破壊があることを身を持って知っていました。「捕獲を禁止するだけでは保護することにはならない」と水産庁への指摘には鋭いものがありました。
クジラ類であるスナメリについてまで発言が及んだことと、参議院では避けてきたトドの保護について「研究者や水産庁の意見を聞いて検討したい」という具体 的な回答があったことは前進として評価できます。これまで環境省の踏み込めなかった壁が壊されつつあると実感しました。

 水産庁が水産資源法において、希少動物の捕獲禁止だけを保護の施策にしていることも問題です。しかし、それ以上に、現在、資源対象種とされている沿岸のイルカ・クジラ類が過重な捕獲圧の下におかれ、(日本海側のミンククジラも含めて)非常に危機的な状況にあることを考えると、一体、こんな速度で間に合うのかという大いに心配になります。おりしも、6月29日には、調査捕鯨船が北西太平洋でのクジラ狩りに出発しました。
 産業の側は持てる資金を使って、好きなように自己正当化を行います。資源管理だけでは決して業を規制できないことは過去の事例からあきらかであり、ニュージーランドのような環境サイドからの資源管理の法律がつくづく必要だと思います。
 この点については、今回約束された鳥獣法の2年後の見直しや、いずれ環境省からだされるであろう環境省令へのパブリックコメントを通じて、一層の働きかけが必要であろうと思います。
 ここでもまた、皆さんのご支援、ご協力を心からお願いする次第です。  

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