ケイコを忘れない

アメリカのアースアイランド研究所と全米人道協会は 12月12日の夕刻、ノルウェーのフィヨルドで、シャチのケイコが急性肺炎のために死亡したと伝えました。 享年は27歳。野生のシャチのオスの平均寿命は29歳ですが、飼育下でのシャチの生存記録では2番目の長寿でした。

ケイコは、1979年、1歳半の時にアイスランドで捕らえられ、カナダの水族館に送られました。しかし、そこに馴染むことが出来なかったために、1年半後にメキシコの遊園地に売られてしまったのです。アイスランドと異なる高い水温など劣悪な飼育環境の中でどんどん体を悪くさせていた時に、映画「フリーウィリ-」の制作のため 主演のシャチを探していたプロデュ-サ-に見い出されました。世界的なヒットとなった映画撮影の後、再びメキシコに戻っていたケイコは、さらに病状を悪化させていました。しかし、映画を見たたくさんの人々、特に世界中の子どもたちが 「ウィリーは海に戻ったのに、なぜケイコは解放されないのか」 と声を上げはじめました。たくさんの人たちの基金によって、アース・アイランド研究所を主体に「フリー・ウィリー・ケイコ基金」 が設立され、96年リリースの前段のリハビリのために、ポートランドに建設された専用プールに入れられ、野生復帰のための特訓が始まりました。 病状が悪化していたため「メキシコからの移動に耐えられないのではないか」 という懸念もありましたが、ポートランドの冷たい海水と手厚い介護によってケイコは健康をとりもどし、1998年に故郷のアイスランドにもどることができたのです。

ケイコにとってたいへん不幸だったのは、アイスランドにおけるシャチの生態調査がそれまで不十分であったために、ケイコの出自が分らず、家族を発見できなかったことでした。そのために、ケイコはアイスランドの湾の囲いの中で、野生のシャチの群れがあらわれるのを待ち続けました。そして、2002年、現れたシャチの群れとともにアイスランドを離れたケイコは、1000km離れたノルウエーにふたたびひとりぼっちでいるところを発見されたのです。

昨年は、アメリカのシアトルで迷子になったシャチの子どもが無事に故郷のカナダに戻って群れに仲間として受け入れられました。しかし、ケイコの解放については、さまざまな意見があります。20年も野生状態から隔離されていたシャチが果たして本当に野生復帰できるのか、もしも生きていたら、ケイコは仲間を見つけることができたのか。それとも、当時のアイスランドにおける過重な捕獲圧で、すでに仲間はすでに消滅してしまって いたのか。今となってはわからないことばかりです。 しかし一方で、私たちがかつて「ケイコ」と呼ばれるシャチを家族から引き離し、その生涯のほとんどを本来の生態とは全くことなる 人工的な施設に隔離してしまったことは明らかです。 それにもめげずに、ケイコは野生を取り戻し、自らの選択でノルウエー のフィヨルドに移動して、そこで自らの生に幕を閉じました。残念ながら、それでもケイコは一生を人間の試行錯誤によってほんろうされたという感は否めません。

ケイコの生と死によって私たちが学ばなくてはならないのは、人が人として生きるために、他の命を簡単に弄ぶようなことをしてはいけないということです。

ものいわぬ弱い立場の生き物にする仕打ちは人の残虐さを写す鏡です。

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