名古屋シャチ裁判の判決

3月7日午前10時、名古屋地裁で起したシャチ購入費用差し止め訴訟に「棄却」の判決がでました。

この裁判は、地元愛知県のオンブズマン愛知が昨年10月、名古屋港水族館の運営母体である(財)名古屋港管理組合に対して、「名古屋港水族館が計画するシャチの飼育は動物虐待にあたり、その費用の支出は違法である」として起した住民訴訟に対するものです。

<背景>
2001年に新館がオープンした名古屋港水族館において、複数頭のシャチの展示を計画、シャチ獲得先としてロシア、カムチャツカ海域に生息するシャチの捕獲を動物捕獲業者に依頼。同年は捕獲に失敗し、オープン時にシャチ導入はなかったものの、2002年度も引き続き導入を計画、管理組 合は予算として3億5千万円の予算をつけました。裁判はこの予算が一般住民の税金の不当な支出にあたるものとして、裁判を起したのです。この裁判は、野生 動物の捕獲・導入に対して動物福祉の観点から起された日本で初めてのケースです。

<「動物虐待にはあたらない」とされた>
 判決で、裁判長は原告申し立ての「シャチ飼育が動物虐待にあたる」と言う主張を棄却しました。

裁判長はまず前提として

「シャチなど野生動物を飼育するという行為はその本来の習性や社会性を損なうものであること、また、人工的な施設での飼育が野生動物に後天的な 変形をもたらす可能性がある」

ことを認めました。

しかし、一方で、「野生動物を身近に見せることによって、生命の尊さや自然保護の意識の昂揚をうながす」と評価し、さらに、水族館が「現在危機に瀕してい る野生動物を緊急避難的に収容して保護に当たる社会的に重要な役割をになっており、人類との共生を考えさせる上で重要」と飼育の必要性を認めました。その 上で 原告主張の違法性の元となる法令について言及。動愛法に定義されている動物についての不適切な扱い、すなわち、理由なく痛めつけたり死にいたらしめる、餌 や水などをやらない、遺棄するなどの行為に該当しないので、法令上の違法性はない。飼育プールの規模については、国内の基準はないが、アメリカの動物の福 祉法に照らしても「21頭飼育が可能な世界最大級のものである」 としました。

*アメリカの飼育施設については、同国の動物保護団体が「手本にはならない全くひどい条件」と批判しています。

また、「生物多様性条約に違反するかどうかについては、生物多様性条約は国家間で取り交わされるものであり、1財団法人である名古屋港管理組合について直 接的な違法性は問われない」としました。さらに、極東海域における生息域内保全については、野外における個体群維持についての危惧がある場合は生息域外保 全も射程にいれ、繁殖→野生への再導入も考えられ、名古屋港水族館はこうした保全への努力を開館当時からおこなってきた、と評価。

*2002年度国際捕鯨委員会科学委員会はロシア、カムチャツカ沖における調査が不十分であるとし、「調査がなされていない現段階で捕獲するのは問題」としています。

また、ワシントン条約については、附属書IIに属する種は輸出国の許可によるもので、これを規制する国内法は存在しないこと、また、「種の保存法」につい ては特定国内野生生物種が対象であるので違法性はない、としました。また、シャチの飼育が集客目的であるということについても、水族館における展示という のは設置目的に照らして当然であり、その目的は保護・保全のための繁殖であると水族館の主張をそのまま取り入れたものになりました。

*輸出国側の科学当局の許可が必要ですが、実際に調査できていない海域について許可を出すのはワシントン条約の主旨に反しています。

これにたいして、福島代表は、
「全くの人間中心思想による判決で残念。また、判決がここまで踏み込んでいるからには、反論せざるをえないので控訴の方向で考えたい」
とその後行われた記者会見で語りました。

主文の原則から言うと、具体的な内容についてはまだまだ議論の余地があります。
その一つに、現在始まったばかりの環境省における動物園、水族館における飼育動物の福祉についての検討(イルカショーの是非につても議論される)が今後の争点の一つになりそうです。

また、当然ながら、繁殖→野生復帰というナンセンスについての科学的な側面からの反論も必要となってくるでしょう。

管理組合は、名古屋港水族館との協定で、シャチ導入まで購入予算をつけ続けるということになっていますが、その会計内容にもいくつかの重大な問題が解明されました。

今後の成りゆきにご注目ください。

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